□ コメント
「同時」
今回、個人的な出来事の象徴としての『花』をぽーんと大きく描いてい
ます。
ユリの花。これは私の親しくしていた叔父の“死”をきっかけにしてい
ます。
無宗教であった叔父の美しく静かな葬儀に献花された百合の花々。その
凛とした姿に数々の思い出を重ねるうちに浮かび上がった作品群で、美
術家になった私を心から見守っていてくれた叔父への鎮魂の気持がそこ
にはあります。
またドローイングで描かれた木蓮は、通りをはさんだ向いの家からいた
だいたものでした。毎年蕾がふくらみはじめてから「あっ」と言う間に
咲き、そして1日2日の間にはらはらと散っていく花。儚なくて繊細、
しかし花の内側から放たれる強く輝く光が、私の心に深く刻み込まれま
した。
ユリ、そして木蓮。どちらも私的な出来事がきっかけでありますが、私
が描きたっかったのは『花』というモチーフそのものではなく、私の身
の回りに存在しそして通り過ぎてやがて忘れ去られてゆくものたちすべ
てです。つまりここにいる小さな私は、世界中のあらゆる悲しい出来事
や逃れられない現実とも同時に存在しているということ。その目に見え
ない関係自体をしっかり背負わなければいけない、というなかば決意の
ようなものがこの花に象徴的に込められています。
「あらゆるものと同時に重なり同時を引き受けるということ。」
私にとってこのことは、今絵を描くという行為そのものであるように思
います。 |