■ アンビエントな絵画はあたらしいか
  −市橋由紀・菊池友希・柴田知佳子・関克弘


□ 展覧会テキスト−藤木周(現代芸術研究)
現代美術の諸動向をめぐる言説は、複雑に肥大化していて、その俯瞰か
らはホワイトノイズと化した光景が広がるのみとなった。アーティスト
も批評家さえも、不可知の悲観か、ハイ・アートの文脈に拘泥しない面
白さに二極化される所在のなさにさい なまれている。
「新しさはもう終わった」といい、「実験と発見と創造の区別はない」
というポストモダンに包み込まれているのだとしても、ここに集められ
た絵画の基本構造を外れないそれぞれの模索が、いったい何処に開かれ
ているのか考えさせられる。
ここでは、10年余りの経歴を経た駆け出しとはいえない作家たちの現
在を見ることができる。現在、彼らの絵画からペインタリーなものが溶
け出したように形を失いだしていることが興味深い。それはペインタリ
ーな表現であれば容易に実現できた絵画の強度のようなものを、弱める
ような一つの変換であり、それをアンビエント化する絵画の志向と仮構
したい。
「アンビエント」。この音楽上の用語が相応しいのか吟味を要するが、
ここにまとめられた一群の絵画には、アンビエント・ミュージックに現
れた「高揚しないことの力」に通じるものがある。そして面白さに抗す
るかのように、アンビエントに向かうことを契機として、ノイズのあふ
れたこの時代にあって、視覚の注意力が拡大される「絵画」らしさを保
持しようとしている。
関克弘の作品は、棚という矩形を描くことによって、絵画空間の物理的
な限界を冷徹に見通している。おそらくその関心はタブローを展示する
垂直性にあって、組み合わせによる作品の構成や、存在感を抑えた色彩
やモチーフの取り合わせなど、ただ垂直性を成り立たせる作意が現れて
いる。
市橋由紀はみどり系統のボタニカルやランドスケープなど柔らかそうな
イメージを引き寄せて、絵画に空気感を導こうとしている。塗り重ねの
筆致をゆっくりと整えながら、正確に絵画表面を大気のような位相に一
致させようとする試みには、イメージを引き寄せつつもイメージには至
らない、計算された均質な作業性が隠されている。
菊池友希もまた、ボタニカルを手がかりに木漏れ日を捉えるような絵画
づくりを始めている。主として2色に分けられる有機的な画面は、先鋭
さを排除して空間を包み込むものの切り取られた一部分として表してい
る。こうして作られたタブローからは、完結した単体性が意図的に薄め
られている。
柴田知佳子は、木枠と額縁によらない画布の展示形式と鉱物顔料による
物質的な色彩で、絵画が場所化する存在感をつくり出している。しかし
その存在感は強い図となる卵形の円により限定的なものにとどめ、作品
にはごく自然な生命感をにじみ出そうとしている。このグループの中で
は作業性が目立つが、作品を見て感じられる呼吸のようなひそやかな律
動は、柴田以外の作品にも通じるものがある。
それぞれの作品は、肥大するコマーシャリズムに適う面白さを持たせて
いないが、控えめな表現が積極的に選ばれることで、かえって視ること
を鋭敏にさせる、アンビエント・ペインティングと言えるのかもしれな
い。

□ 市橋由紀


□ コメント
制作をしていると、外の世界の明るさが窓からこぼれてくるように思う
時があります。
窓から光がこぼれるように、壁にかけられた絵にも、内側から光を放つ
ような色彩とかたちを持たせたいです。

□ 略歴
1972 大阪府生まれ

個展
1995 オンギャラリー                  (大阪)
1999 ギャラリー白                   (大阪)
2000 ギャラリー白                   (大阪)
   ローズガーデン                  (神戸)
2002 ギャラリー白                   (大阪)

グループ展
1996 絵画の方向’96    (大阪府立現代美術センター・大阪)
2000 ニューアカ・絵画展         (ギャラリー白・大阪)
2003 イコノクラッシュに抗して、なお   (ギャラリー白・大阪)
   現代美術の斬新な切り口        (比良美術館・滋賀)
   絵画を見る3           (ギャラリー白3・大阪)
2004 アンビエントな絵画はあたらしいか
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)

□ 菊池友希


□ 略歴
1974 奈良県生まれ
1997 大阪教育大学卒業
1999 大阪教育大学大学院修了

個展
1998 ギャラリー白                   (大阪)
2000 ギャラリー白                   (大阪)

グループ展
1998 第9回 Able Arisan't Expo '98 (ギャラリーエイブル・大阪)
1999 Compact Disc−CDというメディアの響宴
              (神戸アートビレッジセンター・神戸)
2000 思考−実験展          (シティギャラリー・大阪)
   ニュー・アカ絵画展         (ギャラリー白・大阪)
   第11回 Able Arisan't Expo '00 (ギャラリーエイブル・大阪)
2001 天理ビエンナーレ2001             (天理)
2003 イコノクラッシュに抗して、なお   (ギャラリー白・大阪)
2004 アンビエントな絵画はあたらしいか
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)

□ 柴田知佳子


□ 略歴
1968 大阪市生まれ
1994 神戸大学大学院美術教育研究科修了

個展
1995 ギャラリー白                   (大阪)
   阿倍野SOHOギャラリー1            (大阪)
1996 ギャラリー白                   (大阪)
   ギャルリ・ウー                  (大阪)
1997 ギャラリー白                   (大阪)
1999 ギャラリー白                   (大阪)

グループ展
1991 兵庫県展           (兵庫県立近代美術館・神戸)
1995 国際インパクトアートフェスティバル’95
                     (京都市美術館・京都)
1997 実験展              (画廊ぶらんしゅ・大阪)
1998 実験展              (画廊ぶらんしゅ・大阪)
   APOSTROPHE ART Part.5       (ギャラリー石彫・兵庫)
   フラッグアート             (夙川沿い・兵庫)
1999 実験展+α             (画廊ぶらんしゅ・大阪)
   フラッグアート             (夙川沿い・兵庫)
2002 Kansai Art Annual 2002       (SUMISO・大阪)
2003 イコノクラッシュに抗して、なお   (ギャラリー白・大阪)
2004 アンビエントな絵画はあたらしいか
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)

□ 関克弘


□ コメント
シミや模様が何かに見える、ということだけじゃなく、街を眺めても海
や空を 見ていても、目をつぶっていても。
視覚的に何かを感じるために特別に何かを(例えば絵画)を作り出して
それを見る必要は無い。
それでも自分は画を描くし、そこから何かを感じてもらえればいいと思
う。
最小限の空間と色彩のなかに、なにかリズムのようなものを感じてもら
いたい。

□ 略歴
1974 生まれる
1999 京都精華大学美術学部造形学科洋画専攻卒業

個展
2001 棚る                 (信濃橋画廊・大阪)
2002 myshelf,yoursheif        (ギャラリーココ・京都)
   絵≒棚                (信濃橋画廊・大阪)
2003 shelfing               (信濃橋画廊・大阪)

グループ展
1997 今日のドローイング展         (信濃橋画廊・大阪)
   MIYUKI+3(大和撫子完全版)    (ギャラリーココ・京都)
   タブララサ1997      (京都四条ギャラリー・京都)
1998 Best Best Paint          (ギャラリーココ・京都)
2000 受容と供給           (同時代ギャラリー・京都)
2001 thing matter time 2001        (信濃橋画廊・大阪)
   個のしごと展IV            (信濃橋画廊・大阪)
2002 thing matter time 2002        (信濃橋画廊・大阪)
   現代美術小品展2002     (ギャラリーすずき・京都)
2003 thing matter time 2003        (信濃橋画廊・大阪)
   現代美術小品展2003     (ギャラリーすずき・京都)
2004 thing matter time 2004        (信濃橋画廊・大阪)
2004 アンビエントな絵画はあたらしいか
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)