□ コメント
台風のアジア名が気に入り、作品タイトルに借りている。Namtheunはラ
オス語で川の意。Dujuanは中国語でつつじを意味する。気象的にみれば
発達した熱帯低気圧。しかし、「ひまわり」も「アメダス」もない昔、
台風は大地に水の恵みをもたらす龍神の化身でもあった。
今年の龍神様は大層お怒りである。風神・雷神だけでは足りず、ついに
は地中の大ナマズまでしたがえて、執拗に日本列島を苦しめる。9月5
日、関西での強い地震。10月23日、新潟での相次ぐ烈震。
阪神淡路大震災に見舞われた1995年早春、たび重なる余震におびえ
ながら、私は絵画の魂をキャンバスに叩きつけていた。筆や刷毛を使わ
ず、ベニヤや布切れで絵具を伸ばすようになったのもこの頃。コントロ
ールしづらい道具を用いて絵具と格闘することで、押し寄せる不安を拭
おうとしていたのかもしれない。
そして、2004年。相変わらず格闘は続いているが、少しずつ色彩の
語らいに耳を傾ける余裕も生まれた。絡み合い、また拡散する色彩にも
自然の摂理は潜んでいるのだろうか。画面に無理に逆らおうとせず、素
直に手を動かす方が作品になりやすい。
自然は、時に荒ぶる姿を見せることはあっても、その本質はあくまでお
だやかに調和して悠久の時を刻み続ける。私も、その果てしない流れの
ひとしずくに過ぎない。一日も早い大地の鎮静を願いながら、私も自分
の奥深く、いのちの奔流を汲み上げ、いろ・かたちに留めていきたい。 |