■ 氷点下のポリフォニー−加藤悦郎・金子正二・渡辺晶子


□ 展覧会テキスト−高島直之(美術評論)
「意識の残像とイメージの価値−「氷点下のポリフォニー」に寄せて
イメージとは、意識の残像が言葉や観念と結ばれ、それがとり憑いただ
けのものではないのか、と問いかけたのは瀧口修造であった。しかしこ
こですぐに「意識の残像」とは何か、を言いあてることは難しい。それ
は「意識」の断片が体内に入ったときに一瞬よぎった形象を指すか、は
たまた「無意識」に走る一条のひび割れのことなのか、言語によっては
形容しがたい領域だ。むしろその形容の不可能性を証し立てるために、
画家は日々制作にいそしむのかも知れない。
それでも「意識の残像」が不明としても、それが言葉や観念と結びつい
た地点を言いあてることは難しくない。ある日あるとき、日常の習慣的
身振りから離れた、ささやかだが例外的な体験をすることによって視覚
的な印象を刻みつけ、それをきっかけに違った次元に想像力が導かれて
いく、ある稀有な経験。その経験を言葉で再現することは可能だろう。
拡大するこの時代の情報環境は、その表現の幅を広げ、またより容易に
しているといえる。しかし、言葉によってイメージを再現できるのは、
その稀有な経験の発生と帰結に限られはしないだろうか。たしかにそこ
にイメージは存在するが、発生と帰結の中間にある、眩暈を伴う秘儀の
ようなイメージの価値とその啓示については、証明しえないのではない
か。
ここで思い出すのは、テオドール・アドルノが論じたヴァレリーとプル
ーストの美術館と絵画の価値をめぐっての抗争についてである。ヴァレ
リーは、画家がアトリエで画架とカンバスに向って制作しているその表
現の葛藤の場にこそ真の絵画の美、絵画の価値が存在するのであって、
それ以外にない、といった。プルーストは、そのアトリエでの生命を終
えたあとに、もうひとつの生命性を与えるのが美術館の役割であって、
一度死んだものを再生し育んでいくこと、それもまた市民社会での絵画
の新たな価値である、というのだ。
この現代にあっては、プルーストの宣言はより説得性をもつであろう。
いま現在はそのようにしか絵画は生きながらえないと、どうしても思え
るからだ。しかしここで、この加藤悦郎、金子正二、渡辺晶子の3名の
仕事を眺めながら、ヴァレリーの険しく頑なな態度のほうに、急に共感
を覚えていく自分に気づくのである。なぜなら彼らの表現思考は、個々
のアトリエでの、つまりは自己の内部での、終わりなき葛藤の場として
の「絵画」を自覚的に引き受けることから始まっている。
彼らは、その秘儀を封じ込める殻を自らが押し開けて外化し、着地点こ
そないが、生き生きとした絵画の価値を啓示している。私は、それらの
絵画の襞に生起したイメージを通して、ふたたび「意識の残像」と「イ
メージの価値」との関係を考えさせられるのである。

□ 加藤悦郎


□ 略歴
1954 岐阜県生まれ
1998 サント・ヴィクトワール山頂行
   ['99,'00]
2002 スペインにてアーティスト・イン・レジデンス

個展
1984 Rギャラリー                   (京都)
1987 ギャラリー白                   (大阪)
1988 番画廊                      (大阪)
1989 ギャラリー白                   (大阪)
1991 ギャラリー白                   (大阪)
   枚方近鉄ギャラリー                (大阪)
1992 ギャラリー白                   (大阪)
1993 ギャラリー白                   (大阪)
1994 ギャラリー白                   (大阪)
   枚方市民ギャラリー                (大阪)
1995 ギャラリー白                   (大阪)
1996 ギャラリー白                   (大阪)
1997 ギャラリー白                   (大阪)
   ギャラリーマロニエ                (京都)
1998 ギャラリー白                   (大阪)
1999 ギャラリー白                   (大阪)
2000 ギャラリー白                   (大阪)
2001 ギャラリー白                   (大阪)
2002 CAI. Contemporary Art International     (ハンブルグ)
2003 ギャラリー白                   (大阪)
2004 ギャラリー白                   (大阪)

グループ展
1987 表面の仕事展        (アートスペースレボワ・大阪)
1988 ニュー・ジャパニーズ・スタイル・ペインティング
                    (山口県立美術館・山口)
1989 6人の方法展        (御殿山アートセンター・大阪)
1990 マティエールの異種交配       (ギャラリー白・大阪)
1991 Future Nature         (ギャラリークオーレ・大阪)
   京阪沿線より発信−現代美術10人展
   ['93,'95,'97,'99]
           (京阪ギャラリー・オブ・アーツ・アンド・サイエンス・大阪)
1992 氷点下のポリフォニー
   ['94,'96,'98,'99,'00,'01]
              (ギャラリーラ・フェニーチェ・大阪)
                     (ギャラリー白・大阪)
                   (ギャラリーDEN・大阪)
                    (MAギャラリー・福岡)
1994 異類異形展          (熊本県立美術館分館・熊本)
1995 3人展                 (不二画廊・大阪)
   ['96,'99,'00}
1997 現代日本美術展
   ['98,'99]
           (東京都美術館・東京/京都市美術館・京都)
1998 第3回昭和シェル石油現代美術展  (目黒区立美術館・東京)
1999 吉原治良賞展      (大阪府立現代美術センター・大阪)
   ['01]
2001 Illusion of 6 Contemporary Artists in Korean&Japanese
                   (Gallery Wooduk・ソウル)
                    (三重県立美術館・三重)
               (大阪府立現代美術センター・大阪)
2002 氷点下のポリフォニー        (ギャラリー千・大阪)
2003 POLYPHONY         (ギャラリー白・大阪)
   第10回画廊の視点2003
               (大阪府立現代美術センター・大阪)
   絵画を見る3           (ギャラリー白3・大阪)
2004 POLYPHONY (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
2005 氷点下のポリフォニー(ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)

受賞
1999 現代日本美術展 三重県立美術館賞
2001 吉原治良賞展 大賞

パブリックコレクション
三重県立美術館
大阪府立現代美術センター

□ 金子正二


□ 略歴
1948 兵庫県生まれ

個展
1989 ギャラリー白                   (大阪)
   [〜'04]
1989 大阪ダイナマイト                 (大阪)
1990 ギャラリークォーレ                (大阪)
1993 ギャラリーラ・フェニーチェ            (大阪)
   ['95,'97,'01]
2002 ギャラリーDEN                 (大阪)
   ['04]

主なグループ展
1982 自由美術展             (東京都美術館・東京)
   [〜'91]
1986 第16回日本国際美術展
           (東京都美術館・東京/京都市美術館・京都)
   ABC&PI展         (ABCギャラリー・大阪)
1987 第9回エンバ賞美術コンクール    (エンバ美術館・芦屋)
   大阪市立美術研究所40周年記念展  (大阪市立美術館・大阪)
1988 現代美術 6        (アートスペースモーブ・神戸)
   ['89,'92]
   異類異形展       (大阪府立現代美術センター・大阪)
   ['89,'91,'93]
1990 現代美術 6
      (アートスペースモーブ・神戸/画廊ポルティコ・神戸)
1992 絵画展              (画廊ぶらんしゅ・大阪)
   氷点下のポリフォニー        (ギャラリー白・大阪)
   ['95,'99,'00,'01]
1994 異類異形展          (熊本県立美術館分館・熊本)
   京を創る            (龍谷大学深草学舎・京都)
   三人展                 (不二画廊・大阪)
   イメージの新様態 V      (ギャラリーすずき・京都)
1996 氷点下のポリフォニー
              (ギャラリーラ・フェニーチェ・大阪)
1997 大阪市立美術研究所50周年記念展 (大阪市立美術館・大阪)
   ペインタリネス III         (ギャラリー白・大阪)
   金子正二・中津川浩章展         (不二画廊・大阪)
   京を創る                  (鴨川・京都)
1998 Polyphony in Ryon      (フランス)
   ['99]
   梅本和之・金子正二展          (不二画廊・大阪)
2001 ポリフォニー           (MAギャラリー・福岡)
   日韓交流展           (Gallery Wooduk・ソウル)
2002 氷点下のポリフォニー        (ギャラリー千・大阪)
   多視点の絵画     (ギャラリーラ・フェニーチェ・大阪)
   日韓交流展      (ギャラリーラ・フェニーチェ・大阪)
2003 POLYPHONY         (ギャラリー白・大阪)
   絵画を見る3           (ギャラリー白3・大阪)
2004 POLYPHONY (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
   レゾネンス      (ギャラリーラ・フェニーチェ・大阪)
2005 氷点下のポリフォニー(ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)

□ 渡辺晶子


□ 略歴
個展
1983 Rギャラリー                   (京都)
1986 番画廊                      (大阪)
1989 番画廊                      (大阪)
   大阪ダイナマイト                 (大阪)
1990 不二画廊                     (大阪)
1991 番画廊                      (大阪)
1993 Street Gallery           (神戸)
   アートスペース虹                 (京都)
   ギャラリー白                   (大阪)
1995 ギャラリー白                   (大阪)
1996 ギャラリー白                   (大阪)
1997 ギャラリー白                   (大阪)
1998 ギャラリー白                   (大阪)
1999 ギャラリー白                   (大阪)
2000 ギャラリー白                   (大阪)
2001 ギャラリー白                   (大阪)
2002 日本大使館               (コペンハーゲン)
   ギャラリーDEN                 (大阪)
2003 ギャラリー白                   (大阪)
2004 ギャラリーSPACE SOUL          (福山)
   ギャラリー白                   (大阪)

グループ展
1981 第1回吉原治良賞展   (大阪府立現代美術センター・大阪)
   [〜'93]
1982 第3回架空通信展                 (西宮)
1984 ローズガーデン展                 (神戸)
1985 いま、絵画はOSAKA’85
               (大阪府立現代美術センター・大阪)
   INPACT ART NOW          (ソウル)
   WORK ON PAPER '85    (大阪府立現代美術センター・大阪)
1986 第16回日本国際美術展      (東京都美術館・東京他)
   ['88]
   コンテンポラリーアート展             (兵庫)
1987 全関西展             (大阪市立美術館・大阪)
   異類異形展       (大阪府立現代美術センター・大阪)
1988 現代美術 6        (アートスペースモーブ・神戸)
1989 Merry Christmas二人展          (神戸大丸・神戸)
1990 グループ展            (ノースフォート・大阪)
1991 Les Arts Soleil Levant     (カルカソンヌ・フランス)
   吉原治良賞入賞6人展         (信濃橋画廊・大阪)
1992 氷点下のポリフォニー        (ギャラリー白・大阪)
   ふたしかな風−二人展    (アートスペースモーブ・神戸)
1994 アーテフィシャルな位相展        (天野画廊・大阪)
   異類異形展            (熊本美術館分館・熊本)
   建都1200年京を創る         (龍谷大学・京都)
1995 REPORT ON  (ギャラリーラ・フェニーチェ・大阪)
   Women's '95      (大阪府立現代美術センター・大阪)
1996 Hammock in Paraguay        (ローズガーデン・神戸)
1997 芸術祭典−京を創る           (京都疎水・京都)
1998 Polyphony in Lyon      (フランス)
   アーテフィシャルな位相         (天野画廊・大阪)
1999 共振         (セルフソウアートギャラリー・大阪)
2000 氷点下のポリフォニー        (ギャラリー白・大阪)
   震災と美術−1.17から生まれたもの (兵庫県立美術館・神戸)
2001 日韓交流展           (Gallery Wooduk・ソウル)
2002 氷点下のポリフォニー        (ギャラリー千・大阪)
   日韓交流展      (ギャラリーラ・フェニーチェ・大阪)
2003 POLYPHONY         (ギャラリー白・大阪)
   POLYPHONY        (MAギャラリー・福岡)
   絵画を見る            (ギャラリー白3・大阪)
2004 POLYPHONY (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
   モノクロームの実践       (ギャラリーDEN・大阪)
2005 氷点下のポリフォニー(ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)

受賞
1984 ローズガーデン展 2席
1986 コンテンポラリーアート展 大賞
1987 全関西展 受賞
1991 吉原治良賞展 優秀賞

パブリックコレクション
デンマーク日本大使館