□ 展覧会テキスト−那賀裕子+貞彦(美術評論)
「構造的な絵画から場所的な絵画へ」
合板という素材を使っていろいろと奇妙な形態を切り抜きマットな感じ
で表面をアクリル絵の具で仕上げていって、フランク・ステラのいうと
ころの「レリーフ・ペインティング」をつくっていた堀内昇は、199
4年のことではあるが、それをやめて、キャンヴァスへの油彩ペインテ
ィングへと展開を遂げている。油彩ペインティングからそれを構造的な
レリーフ状の絵画へと展開するのではなくて、レリーフ状の立体的な絵
画から、実に一枚の油彩ペインティングへと、逆に、回帰しているので
ある。
初めは、一枚の合板の表面に油彩ペインティングをしていたので、合板
の板目に沿ってできたペインティングの筆あとがガサガサとした感じを
みせていたのであるが、続いて、それをあたかも再現するかのように、
キャンヴァスに、ガサガサとした感じの油彩ペインティングをすること
になる。たしかに、その移し変えの面白さがあったのだが、その時期の
油彩ペインティングは、バックに大きな形態を置いて、その上にほとん
どドゥローイングというべき“線”が載せられているというような、な
お、構造的な油彩ペインティングであったといってよい。
堀内昇の絵画のほんとうの面白さは、その構造的なペインティングがキ
ャンヴァスの表面の場所において、いうならば場所的な油彩ペインティ
ングへと変貌を遂げているというところにある。いま、横長のキャンヴ
ァスの表面の場所において、〈地〉といってよい青の色面に対して同じ
青色の“線”がのびやかにうねり、そして、それがダイナミックなひろ
がりとしての〈図〉をみせているのである。〈図〉と〈地〉の関係が、
構造的ではなくて、みごとな場所的なものとなっているといってよい。
今その油彩ペインティングの表面の場所においてダイナミックな“線”
があたかも生命体のように息づいているのをみることができるが、その
場所において、まさに、堀内昇の精神にこそ出会えるのかもしれない。 |