□ 展覧会テキスト−坂本牧子(兵庫陶芸美術館学芸員)
「土が心をひらく瞬間(とき)」
モダニズムの価値観のもと、芸術はつねに革新の中に存在意義を見出し
てきた。既成概念を壊し、新たな表現を生み出すために。そして、芸術
の本質を再び問い直すために…
土という素材のもつあらゆる表情を引き出し、作家と土とが触れ合った
その痕跡をまざまざと作品に刻み込んでいく小松氏の作品は、いつも生
々しいほどにリアルである。作家を取り巻くさまざまな状況の中で感じ
たことから触発され、「自然の根源たる営みの成長点」を意識しながら
生み出される作品たちは、まるで呼吸する皮膚をもつ生命体のようであ
る。しかし、これらの作品が生まれていくその過程は驚くほど理知的で
コンセプチュアルであり、この鬩ぎ合いから作品のエネルギーが生まれ
る。そして計算され尽くしたプランに基づき、作品の置かれる空間は作
品の鼓動とともに震撼し、観る人の心に響いていくのである。外観のフ
ォルムを通して投影される光と影、焼き締まった内側の土の表情、そし
て作品の内側からの鑑賞…前作で呈示されたこれらのコンセプトは、作
家のストイックな造形思考に因るものにほかならない。それに比して、
作家が土と対峙し、土と格闘する行為のなんと本能的なことか?そして
生まれた作品の表情やフォルムのなんと純粋で原初的なことか?
土が心をひらく瞬間(とき)、作家は作品を通して、陶による造形の本
質を問うことに成功するのかもしれない。薄暗い内部の空間から出でた
目は、再び外側から外観を眺める。作家の掲げる「道標」が今度はどん
なものか、楽しみでならない。 |