■ 第7回ネオリアリスト10人展


□ 展覧会テキスト−前田孝一(元大阪府立現代美術センター館長)
「私的な心象造形が中心−第7回ネオリアリスト展」
そもそも、「ネオリアリスト」というタイトルは、第1回展が大阪芸術
大学美術学科の具象絵画を扱う「リアリズム研究会」を母体としたこと
に由来する。従って、この展覧会のルーツは極めてアカデミックである
点を特徴とする。
展覧会の誕生に至る経緯について、過去の資料を敷衍(ふえん)すると
次のようである。
すなわち、1990年代の美術の状況は急速に発達した多様なメディア
の影響を受けた通俗的で手軽な視覚芸術が幅をきかせ始め、本来のリア
リズム絵画は社会のスピードについてゆけず、密度のない弱々しい存在
になってしまった。そこで、このような現実に対抗して、絵画に深い精
神性とリアリティを取り戻すために手仕事に徹した、絵画本来の描くと
いう行為に回帰することが必要であるとする。
以上のような認識のもとに、具体的行動として結実したのがネオリアリ
スト展である。
回を重ねるにつれ、メンバーも入れ替わり、既に中堅として活躍中の卒
業生も加わり、学生達も社会との接点をもつに至る。また、師弟、先輩
後輩が同じ地平で競作し合うという理想も実現する。しかし、卒業生の
参加者には抽象作家も立体作家も含まれることになり、当初の、リアリ
ズム絵画本来の描くという行為に回帰するというコンセンサスも変わら
ざるをえなくなる。そして、リアリズムの概念も、絵画の様式概念から
より広く拡大解釈されることになる。
グループメンバーが“現代という視点で、社会の現実に対する鋭い考察
を出発として、先鋭なリアリティを追求する”(2006年ネオリアリ
スト9展カタログ)というコンセンサスに即して、“ネオリアリスト”
たり得ているか。それは観賞者がそれぞれの感性に照らして判断するほ
かないが、参考までに個々の出展作品について、若干のコメントを記し
てみる。
まず、赤嶺圭吾は、アジアの風土に根ざす造形や色彩のもつ迫力に着目
する。例えば、アジア各地に見る佛画の力強さは、時空を超えて現代の
サイケデリックなキャラクター絵画に通底するという。赤嶺の一種のき
わどさを孕む作品は一見キッチュのようでいて時にギョッとするような
凄みを見せる。俗と聖のバランスの上に成立する赤嶺芸術の今後の展開
が楽しみである。
石川知は、現代美術ではともすれば排斥されがちな、東洋固有の美の要
素である装飾性にひそむ潜在意識としての力を龍になぞらえ、西洋画の
立体性と東洋画の平面性を拮抗させながら表現する。力の象徴に龍を用
いるのは西洋絵画の文脈の外にあって、表現力の限界を試す決意のメタ
ファーとしても相応しいからだろう。
柏原秀年は、ピラミッドやマチュ・ピチュの要寒都市の精巧な石組みが
長い歴史を経て眼前にあることへの感動を作品に込める。鉄錆色の表面
処理には柿渋や蜜蝋などの天然素材を用い、それが時間の経過と共に徐
々に微妙に変化してゆく。このような時間へのこだわりは、軽々に変化
を肯定する現代人の価値観への警鐘ともとれる。
久野安依子は、自己の性や思惟など、属性の全てをレリーフ状の作品に
つめ込む。囲いの中心を占めるエデマ(浮腫)は、いわば自分自身の宇
宙でもある。塗り込められた絵具の下には、作者の心象を綴った紙片が
コラージュされているが、かすかに見える文字も他人には判読し難い。
作者だけが自己の存在を確かめるという極めて私的な造形である。かと
いって少女趣味の綺麗さはなく、人生の襞を見据えようとする気迫があ
る。
小泉里美の人体定規の図形をモチーフにしたクールな画面は、余白のス
ペースのせいか、どこか東洋的な余韻を感じさせる。モノクロームの人
の横顔、その上の人体定規を用いた複雑な模様は、進化、肥大化した現
代人の頭脳を連想させるが、それが希望のない冷たい未来を暗示するの
ではなく、明るい未来を洞察していそうなところが面白い。
伊達泰正は、隕石の衝突でえぐられたような穴の立体の3連作を出品し
ている。凹凸の凸の方は、ただその表面が認識されるだけだが、穴には
その中に存在するかも知れない未知のものへの興味が視線を引きつける
力がある。作品を覗いてみると確かに何かがある。そこで作者の機知に
直面した観賞者は、たぶん作者にしかわからない題名の意味を想像させ
られる仕組みになっている。金属質ながら妙に人間臭い作品である。
藤原稔は、以前から大地や大地をよぎる風をテーマにした心象風景を描
いてきた。今度のグレーを基調にした抽象絵画も、もともと全ての色を
含むとされるグレーを異なる色を幾重にも塗り重ねて作り出した結果、
多重の絵具が織りなす色彩が微妙な輝きを発し、その輝きの間に現れる
かすかな形が空間の広がりと深みを感じさせるのに効果的に作用する。
堀内昇が追求するテーマ“breath”(息づかい)は、森や林に息
づく自然のダイナミズム、季節の移ろいに見る多彩な表情を形象化する
が、この種の絵画ではストロークによる線が生命をもった瞬間を定着さ
せられるかが勝負どころだ。画面が呼吸しだすまでストロークを繰返し
ながら、自分の周波数が画面と同調する時を見極める。簡単なようで奥
の深い、むつかしい仕事だ。
松本昌彦は、自然の風をテーマに軽やかに空間に舞う布や植物のイメー
ジを追う。もともと温もりのある木を素材に選んだこと自体、自然との
対話を好む日本人の特性を現すが、間伐材の小口を重ねて器用に作るロ
ープの柔かい質感がちょっとマジカルで見る人を捉える。シリアスな現
実より明るく爽やかな現実と向きあう作者の優しいキャラクターの現れ
た作品といえる。
最後に、矢野正治は黒と銀というミニマルな色彩で作品を作る。黒地に
銀でプリントされた木の葉などの自然物のイメージは、モノプリントで
ある。それと対比させる形で、中央に工業製品である金属製の円盤やデ
ィスクを配する。1978年に発表した「モノプリントワーク」を現在
に甦らせたとあって、手慣れた仕事は美しい。
以上を通観して思うのは出品作の多くが自己認識や民族文化への傾倒、
自然礼讃などの、いわば私的な心象造形である点だ。今日の美術の状況
に共通する社会派から個人派への傾向はここでも例外でない。現代の社
会は今なお様々な深刻な問題を抱えるが、それらが拡大を続けるITメ
ディアのヴェール越しにしか思索の方途をもち得なくなったとき、美術
に往年のアヴァンギャルドの先鋭を期待するのは難しい環境になった。
作家のモチヴェーションも、またその効果も減退した。
ともあれ、今展は、10人の力作を展示するにはスペースが小じんまり
していて、作品の選択にも陳列にもかなり工夫を要したと思われること
に留意したい。ただ、その分小粒ながら密度のある作品が出たと思う。

□ 赤嶺圭吾


□ 略歴
1984 大阪府生まれ

主なグループ展
2004 日本アンデパンダン展        (東京都美術館・東京)
2006 独立展               (東京都美術館・東京)
   世界堂絵画大賞展         (世界堂新宿本店・東京)
   ZERO展            (大阪市立美術館・大阪)
   [〜'07]
2007 ネオリアリスト展−9/12展
               (薬業会館ロビーギャラリー・大阪)
                (くずはアートギャラリー・大阪)
   ヴィジュアルモーツァルト展
             (大阪芸術大学体育館ギャラリー・大阪)
   第7回ネオリアリスト10人展    (ギャラリー白・大阪)

□ 石川知


□ 略歴
1955 大阪府生まれ
奈良大学文学部国文学科卒業
大阪美術専門学校研究科卒業
大阪芸術大学美術学科卒業
大阪芸術大学大学院芸術制作研究科修了

主な個展
2007 ギャラリー白3                  (大阪)

主なグループ展
2006 ネオリアリスト9展   (大阪府立現代美術センター・大阪)
   ネオリアリスト           (大阪薬業会館・大阪)
   ニューアート・ゼロ展        (天王寺美術館・大阪)
   アートスクランブル展   (くずはアートギャラリー・大阪)
   ネオリアリスト12展   (くずはアートギャラリー・大阪)
   新生具象作家展      (くずはアートギャラリー・大阪)
2007 第7回ネオリアリスト10人展    (ギャラリー白・大阪)

□ 柏原秀年


□ 略歴
1956 大阪府生まれ

主なグループ展
1983 日本彫刻展         (宇部市野外彫刻美術館・山口)
   朝日クラフト展            (阪急百貨店・大阪)
   ['84]
1984 第7回日本金属造形作家展       (和光ホール・東京)
   ['85]
1985 アートナウ’85       (兵庫県立近代美術館・神戸)
1986 金沢彫刻展                    (石川)
   [〜'91]
1991 BAO芸術祭in堅田大津             (滋賀)
1992 CONSTELLATION CONTEMPORARY ART NOW '92
                  (神奈川県民ホール・神奈川)
2005 天理ビエンナーレ2005     (天理教特設会場・奈良)
2006 2006京展            (京都市美術館・京都)
2007 第7回ネオリアリスト10人展    (ギャラリー白・大阪)

□ 久野安依子


□ 略歴
1985 静岡県生まれ

主なグループ展
2006 ZERO展             (大阪市美術館・大阪)
   ネオリアリスト展     (くずはアートギャラリー・大阪)
   新生具象作家展      (くずはアートギャラリー・大阪)
2007 ZERO展             (大阪市美術館・大阪)
   Negative Art展vol.3      (ギャラリーwks.・大阪)
   第7回ネオリアリスト10人展    (ギャラリー白・大阪)

□ 小泉里美


□ 略歴
1976 神奈川県生まれ

主なグループ展
2002 西脇市サムホール大賞展    (西脇市岡之上美術館・兵庫)
   [〜'06]
   美浜美術展            (福井県立美術館・福井)
   [〜'03]
2003 三田市美術展            (三田市民会館・兵庫)
2004 モダンアート展          (京都市美術館・京都他)
   [〜'06]
2005 2005京展            (京都市美術館・京都)
2006 2006京展            (京都市美術館・京都)
2007 第7回ネオリアリスト10人展    (ギャラリー白・大阪)

□ 伊達泰正


□ 略歴

主なグループ展
2007 第7回ネオリアリスト10人展    (ギャラリー白・大阪)

□ 藤原稔


□ 略歴
1953 兵庫県生まれ
1976 大阪芸術大学美術学科卒業

主なグループ展
1979 架空通信展          (大阪府民ギャラリー・大阪)
1983 現代の平面−青年ビエンナーレ
               (大阪府立現代美術センター・大阪)
1987 連続パフォーマンス「ビニール」 (枚方市民センター・大阪)
1993 色とカタチの通過点   (大阪府立現代美術センター・大阪)
   いま絵画は−OSAKA’93
               (大阪府立現代美術センター・大阪)
1995 京阪沿線より発信−現代美術10人展(京阪ギャラリー・大阪)
   ['97,'99]
2007 第7回ネオリアリスト10人展    (ギャラリー白・大阪)

□ 堀内昇


□ 略歴
1960 大阪府生まれ
1987 大阪芸術大学芸術学部美術学科卒業

主な個展
1986 信濃橋画廊                    (大阪)
1990 番画廊                      (大阪)
1991 ギャラリー白                   (大阪)   ['93〜'94,'96〜'00,'06]
2003 コバヤシ画廊                   (東京)

主なグループ展
1986 日本国際美術展 (東京都美術館・東京,京都市美術館・京都)
1987 エンバ賞美術展       (エンバ中国近代美術館・兵庫)
   ABC&PI展         (ABCギャラリー・大阪)
1989 吉原治良賞美術コンクール展
               (大阪府立現代美術センター・大阪)
   現代日本美術展 (東京都美術館・東京,京都市美術館・京都)
1990 大阪絵画トリエンナーレ(マイドームおおさか・大阪)
1991 京都美術展(京都府京都文化博物館・京都)
2005 Ge展               (京都市美術館・京都)
2007 第7回ネオリアリスト10人展    (ギャラリー白・大阪)

□ 松本昌彦


□ 略歴
1956 大阪府生まれ
1979 大阪芸術大学美術学科卒業

主なグループ展
1982 明日の美術館を求めて−美術劇場(兵庫県立美術館・神戸)
1987 天理ビエンナーレ(天理教特設会場・奈良)
   ['89]
1994 関西国展(京都市美術館・京都)
   ['95]
2000 国展(京都市美術館・京都他)
   ['02]
2006 ネオリアリスト9展(大阪府立現代美術センター・大阪)
2007 第7回ネオリアリスト10人展    (ギャラリー白・大阪)

その他
1980 中村滋延氏(音楽家)依頼による「音具」作製
   「日独週間-文化の出会い’80」 の「ワークショップ・音具」
   に参加          (ドイツ文化センター主催・大阪)

□ 矢野正治


□ 略歴
主な個展
1978 ギャラリー16                  (京都)
1979 村松画廊                     (東京)
1981 ギャラリー白                   (大阪)
   朝日画廊                     (京都)

主なグループ展
1977 現代版画コンクール   (大阪府立現代美術センター・大阪)
1978 日本現代版画大賞展          (西武百貨店・東京)
1980 いま絵画は−OSAKA’80
               (大阪府立現代美術センター・大阪)
   ['82]
1981 アートナウ1970〜1980 (兵庫県立近代美術館・神戸)
2007 第7回ネオリアリスト10人展    (ギャラリー白・大阪)