清水六兵衞展 ROKUBEI Kiyomizu


2008.12.15-12.24 ギャラリー白




□展覧会テキストー藁科英也(千葉市美術館学芸係長)

「創造と継承」
 八代清水六兵衞の「相対形象」シリーズは、2年前の2006年暮に開催されたギャラリー白の個展で初めて発表された。この時は、画廊の展示台の上にやや離して並べられたふたつの直方体を中空で結びつけるように、同じ材質・釉薬によるタタラ(土の板)が水平に配された作品が中心だった。面の四隅は中空でぴんと張ってはおらず、焼成と重力に従い下方に垂れ下がっていた。この個展は純粋な立体造形の発表だったが、以後作者は器物の傾向が強い作品にも、この水平面を要素として導入している。1980年代以来、作者が追求し続けていた幾何的なかたちには、厳密さと端正な佇まいあった。しかし、新たな要素の導入によって、清水が従来制作していたかたちは、「もの」であるー箇の作品の中でボディとして物理的に中心性は保持しながらも、完結した存在ではなくなった。
 異なった構成要素を組み合わせるという清水の作例は、今日まで続くこの連作が初めてではない。彼の最初期の活動である1981年、ギャラリー・カト(京都)で開催されたグループ展「陶九会」で発表された作品「無題」(1981)は、轆轤で成形された円筒(接地面は塞がれている)の側面に、辺だけの立方体が三(ないし四)個取り付けられていた。「無題」における立方体が「相対形象」の水平面と類似した性格、作品を構成する主要な部分を作品全体の中で相対化させる機能を担っていることは、両者の比較から確かめることができる。その後、「無題」の曲面と直線は’83年の朝日陶芸展でグランプリを受賞した「CLOSE SPACEーI」に代表される、上部に撓んだ面を持つ直方体のユニットによる構成へと収斂した。
 もっとも、「相対形象」を清水の初期作品の変奏としてのみ理解することはできない。水平面が示す重力は、単なる物理的現象に止まらず、作品とそれが置かれた場の関係を明らかにしている。前述の、1981年に制作された「無題」での純粋に幾何的な形態の組み合わせでは、三次元の中で「作品」独自の空間を所有することを目指していた。現在の作者は、作品にもっと生(なま)な、リアリティのある空間を取り込むことを意図している。さらに、この観察を推し進めると、水平面は接地面(台座や床、あるいは大地)の写像が作品に取り込まれたものであると見なすこともできる。「相対形象」の場合、ボディが重力に抗して構築されることで自律的な作品の空間を生み出していることに対して、水平面は作品が設置されている空間の物理的な性格を顕在化する。つまり、単に異なった要素の組み合わせだけに止まらず、それぞれの要素が有している空間の質も違うことになる。
 清水によれば「相対形象」は三次元の現実的な空間を文節化し、再統合を図る試みであるという。これは「もの」である作品の成立過程がそのまま新たな空間の統合を目指す行為であり、戦後の日本彫刻において提案されながらも現在中断されたままとなっている作品を構成する要素間の、そして作品と設置された場所との、“affinity(親和)”を再び問う作業でもある。



□ 略歴

1954

京都市生まれ

1979

早稲田大学理工学部建築学科卒業

1980

京都府立陶工職業訓練校にてロクロ成形を学ぶ

1981

京都市礦業試験場にて釉薬技法を学ぶ

2000

八代 清水六兵衞を襲名

現在

国際陶芸アカデミー(IAC)会員

 

個展

1985

マスダスタジオ

(東京)

1987

ギャラリー白

(大阪)

1988

マスダスタジオ

(東京)

京都朝日サロン

(京都)

1989

ギャラリーなかむら

(京都)

INAXギャラリー

(東京)

1990

渋谷西武百貨店

(東京)

浜松西武百貨店

(浜松)

1991

ギャラリー白

(大阪)

ギャラリーなかむら

(京都)

1992

マスダスタジオ

(東京)

1993

京都市四条ギャラリー

(京都)

ギャラリーなかむら

(京都)

ギャラリー小柳

(東京)

1994

メモリーズギャラリー

(名古屋)

1995

栃木県総合文化センター

(宇都宮)

原画廊

(水戸)

1996

マスダスタジオ

(東京)

鳥取大丸百貨店

(鳥取)

ギャラリーなかむら

(京都)

1997

伊勢丹新宿店

(東京)

1998

コンテンポラリーアートNIKI

(東京)

1999

ギャラリーなかむら

(京都)

ギャラリー彩陶庵

(萩)

世界のタイル博物館企画展示室

(常滑)

伊丹市立工芸センター

(伊丹)

2000

守山市民ホール

(守山)

ギャラリーK

(倉敷)

2001

京都高島屋

(京都)

日本橋高島屋

(東京)

2002

祇をん小西

(京都)

益田ギャラリー

(東京)

2003

ギャラリー白

(大阪)

ギャラリー十玄門

(東京)

2004

ギャラリー白

(大阪)

イムラアートギャラリー

(京都)

2005

大阪高島屋

(大阪)

横浜高島屋

(横浜)

米子高島屋

(鳥取)

ギャラリー白

(大阪)

2007

京阪百貨店守口店

(大阪)

2008

大丸心斎橋店美術画廊

(大阪)

ギャラリー白

(大阪)


グループ展

1983

朝日陶芸展 '83

1986

第14回中日国際陶芸展

朝日陶芸展 '86

汎世界創作陶芸展

(ニューコア百貨店:ソウル)

セラミック・アネックス・シガラキ'86

(滋賀県立近代美術館ギャラリー:滋賀/信楽伝統産業会館:滋賀)

第1回国際陶磁器展 美濃 '86

1988

八木一夫賞'88 現代陶芸展

1989

秋山陽・清水柾博・福本繁樹展

(ABCギャラリー:大阪)

八木一夫賞'89 現代陶芸展

清水柾博・長江重和 二人展

(京都大丸:京都)

日韓青年陶芸作家交流展

(京都クラフトセンター:京都)

第2回国際陶磁器展 美濃 '89

ユーロパリア'89-日本「昭和の陶芸-伝統と革新」展

(モンス市立美術館:ベルギー)

1990

陶芸の現在-京都から

(高島屋:東京/横浜/大阪/京都)

土の造形

(栃木県立美術館:栃木)

韓日青年陶芸作家交流展

(錦湖美術館:ソウル)

現代の陶芸

(和歌山県立近代美術館:和歌山)

1991

京都工芸の新世代

(松屋銀座:東京)

平成陶芸の全貌と展望展

(天満屋:岡山/福山/米子/広島)

日韓青年陶芸作家交流展

(ギャラリーマロニエ:京都)

ミーム・プール展

(小原流会館:東京)

若き旗手達-陶芸

(伊丹市立工芸センター:伊丹)

1992

韓日青年陶芸作家交流展

(土アートスペース:ソウル)

陶芸の現在-京都から

(高島屋:東京/京都/大阪/横浜)

陶芸の現在性展

(神戸西武百貨店:神戸/池袋西武百貨店:東京)

第3回「次代を担う作家」展

(京都府立文化芸術会館:京都)

1993

芸術祭典・京-変貌する森

(下鴨神社:京都)

現代の陶芸 1950-1990

(愛知県立美術館:名古屋)

第48回ファエンツァ国際陶芸展

(ファエンツァ:イタリア)

日本・韓国現代造形作家交流展

(大阪府立現代美術センター:大阪)

1994

平安建都1200年記念 美術選抜展

(京都市美術館:京都)

京都創作陶芸のながれ

(京都文化博物館:京都)

セラミック・アネックス・シガラキ'94

(滋賀県立近代美術館ギャラリー:滋賀)

クレイワーク

(国立国際美術館:大阪)

1995

現代・京都の工芸

(京都文化博物館:京都)

第49回ファエンツァ国際陶芸展

(ファエンツァ:イタリア)

1996

写楽再見

(国際交流フォーラム:東京)

IAC '96 JAPAN 国際陶芸アカデミー会員展

(佐賀県立美術館:佐賀)

1997

SIDNEY MYER FUND INTERNATIONAL CERAMICS AWARD

(HEPPARTON ART GALLEY:オーストラリア)

1998

'98新鋭美術選抜展

(京都市美術館:京都)

陶芸の現在的造形

(リアス・アーク美術館:気仙沼)

賀県立陶芸の森創作研修館(信楽)にて制作

1999

森で生まれた作品展-アーティストインレジデンスから1998

(滋賀県立陶芸の森陶芸館:信楽)

なんてき・れ・い なんて不思議-釉薬の表現と陶芸美

(滋賀県立陶芸の森陶芸館:信楽)

日本現代陶芸展-前衛の動向

(ファン・ボンメル・ファン・ダン・フェンロ市立美術館:オランダ)

現代陶芸の精鋭

(茨城県陶芸美術館:笠間)

京都の工芸 1945-2000

(京都国立近代美術館:京都/東京国立近代美術館工芸館:東京)

2002

タカシマヤ美術賞展

(高島屋:東京/横浜/大阪/京都)

国際現代陶芸招待展

(台北縣立鶯歌陶瓷博物館:台湾)

現代陶芸100年展

(岐阜県現代陶芸美術館:多治見)

2003

日陶芸作家交流展2003

(ギャラリーサガン:ソウル)

2003現代韓日陶芸展-共生をめざして

(錦湖美術館/錦湖アートギャラリー:ソウル)

九州・京都陶芸八人の会

(福岡アジア美術館交流ギャラリー:福岡)

2004

カイロスの時・空・間

(瀬戸市新世紀工芸館:瀬戸)

国際交流邀請展

(中国美術館:北京)

清水六兵衞歴代展

(千葉市美術館:千葉)

2005

やきもの新感覚シリーズ・50人

(セントレアギャラリー:常滑)

林邦佳・清水六兵衞・田嶋悦子展
-2004年度日本陶磁協会賞受賞記念

(和光:東京)

疎通・拡散

(ミラル美術館:ソウル)

2006

黒田克正×清水六兵衞-物質と意識の磁場

(ギャラリーなかむら:京都)

CERAMICS beyond borders

(National Library:シンガポール)

2007

「素材×技術」からフォルムへ-陶

(ギャラリーヴォイス:岐阜)

第22回現代日本彫刻展'07

(宇部市野外彫刻美術館:山口)

2008

黒田克正×清水六兵衞-物質と意識の磁場PartII

(ギャルリー東京ユマニテ:東京)


受賞

1983

朝日陶芸展 '83 グランプリ受賞

1986

第14回中日国際陶芸展 外務大臣賞

1986

朝日陶芸展 '86 グランプリ受賞

1988

京都市芸術新人賞受賞

八木一夫賞 '88 現代陶芸展 優秀賞

1989

八木一夫賞 '89 現代陶芸展 読売賞

1992

第3回「次代を担う作家」展 大賞受賞

1993

京都府文化賞 奨励賞受賞

1997

SIDNEY MYER FUND INTERNATIONAL CERAMICS AWARD Poyntzpass Pioneers Ceramics Award 受賞

1999

タカシマヤ美術賞受賞

2005

2004年度日本陶磁協会賞受賞


パブリックコレクション

 

東京国立近代美術館

 

国立国際美術館

 

国際交流基金

 

京都府文化博物館

 

京都市美術館

 

和歌山県立近代美術館

 

滋賀県立陶芸の森

 

高松市立美術館

 

岐阜県現代陶芸美術館

 

茨城県陶芸美術館

 

エバーソン美術館(アメリカ)

 

大英博物館(イギリス)

 

台北市立美術館(台湾)

 

プラハ装飾美術館(チェコ)

 

王立オンタリオ美術館(カナダ)

 

シェパートンアートギャラリー(オーストラリア)

 

セーブル国立陶磁美術館(フランス)

 

ケラミオン美術館(ドイツ)

 

京都迎賓館

 

ベキーナ美術館(ギリシャ)

 

中国美術館(中国)