■ 絵画的絵画−石川裕敏・山部泰司・渡辺智子


□展覧会テキスト−江上ゆか(兵庫県立美術館学芸員)
「絵画の豊かさ」
「絵画的絵画」という謎かけのようなタイトルの展覧会。企画書によれ
ば「具象的イメージを導入した」作家を集めたものという。前世紀の抽
象の極北をへて、現在、具象的絵画は隆盛をみせている。とりわけ私的
なイメージを描く若手の作家たちが注目を集めているが、そうした傾向
に限らず具象は幅広く描かれている。現実を再現するのであれば写真や
映像がこれほど手軽な時代に、それでも絵画が描かれるのは絵を描き、
見るという欲望と衝動が根源的なものであることの証しでもあり、また
いかに写実的な再現であっても、絵画は必ずやそこにイメージをつくり
出すからであろう。絵画は画面という場で、あくまでも絵画としてのイ
メージをつくりあげてゆくしかないのである。
本展の出品者は、いずれも活動歴が十数年から二十年以上におよぶ作家
たちである。上述の若手の傾向や単純な再現的具象とは一線を画し、や
や抽象寄りの作家が多く見られるが、作風に共通点を見いだすことは難
しい。具象的イメージの絵画への導入の仕方、画面におけるイメージの
成り立たせ方も、様々である。
石川裕敏がもののかたちを写すことなく、しかし結果として具象的な魅
力を宿した画面をなしえていることは興味深い。平行にストロークや点
を重ねた画面にあらわれる、水平線や野原のような眺め。確かに私たち
は横一本の線でも水平線とみなしてしまいがちなのではあるが、たっぷ
りと盛られた絵具が絶妙なバランスでとどまる石川の画面は、そのみず
みずしいひろがりの感触までも細やかに感じさせてくれる。
佐藤有紀の作品も一見抽象的で、事物をかたちどるという意味での具象
性は見られない。だが緑を基調にやわらかなかたちを配した画面には、
木や草花の点在する庭をめぐり眺めるときの、心地よい感覚をおぼえず
にはいられない。風景をいったん自らの中に沈ませ、あらためて絵に置
きかえる。そのとき景色を眺める目線の豊潤さや息づかいが、絵具によ
って丁寧に掬いとられ、具に象られているのだとも言えるだろう。
いかにも風景画らしい山部泰司の《風景画》。めぐる道筋、燃え上がる
ような木々。空や地面に荒々しく残る筆あとは、空気を震わすかのよう
だ。かようにゴージャスでありつつモノクロームの画面は、ざわざわと
記憶をかき立てる。どこかで見た風景のような、しかしそれはどこであ
ったか、このうねる筆づかいには絵の中で会ったのかもしれない。現実
と絵画の交錯する記憶から発生させられた風景画は、その複雑な構造が
目と頭の両方に、目眩のようなドライブ感をかきおこしてくれる。
部屋の片隅、壁紙の模様や卓上の小さなうつわが、たらし込まれた絵具
のにじみの中からゆっくりと浮かびあがる。「tableland」と 題された
渡辺智子のシリーズは、日常にありふれた光景のおぼろげな輪郭が、記
憶の底からふと浮かんでは溶けてゆく、そのありさまを写しているかの
ようである。デリケートな絵肌の表情もまた重ねられた時間の手触りを
感じさせ、筆によらない描画の魅力的な語法がさまざまに追求されてい
る。
大山絵美の作品には、しばしば植物のようなかたちが現れる。しなやか
な描線の連なりがあいまいな図形を折り重ね、ところどころで花弁や葉
に似たかたちを結んでいる。それは画面と向き合い関わりあうなかで、
探し、見つけ、汲みとられたかたちである。色面で堅牢に構築された以
前の画面づくりに対し、近年の作品では画面全体もまた関わりのなかに
たちあがるような、しなやかなあり方をみせている点が興味深い。
三村逸子の近作の主要なモチーフは、植物の種や実、そして人間の内部
器官などである。いずれもごく小さいなかに、生のエネルギーを充満さ
せたものたちである。三村はそれらを密やかな世界に閉じこめるのでは
なく、画面に大きく持ち出し、なまなましくもくっきりとした輪郭で描
き出す。その描写は比較的再現性をとどめる場合と、なまなましさを増
幅させる時があるようだが、いずれの場合もイメージは明快な強さで見
る人に差し出される。
しゃれこうべや木の枝といった象徴的なモチーフが、祭壇を思わせる区
画の中に描かれた福田新之助の作品。ストロークとモチーフの強さが一
体となったその像は、目に焼き付き、しるしのように残って離れない。
この強いイメージは、物語性への回帰といったレベルを突き抜けて、そ
の意味するところ、つまりは人間の生と死に関わる事柄を、簡潔に直截
に指し示しているように思われる。
いずれも絵画のいまだ耕しつくされぬ領域で、真摯な試みを丁寧に続け
る作家たち。その多様さに帰納的に共通点を見いだすよりも、拠るべき
大きな物語を失った今、見る側もまずなすべきは、そのひとつひとつの
豊かさに出会い、具に見ることと考える。「絵画的絵画」は様々な意味
にとれようが、これもまずは絵画的な豊かさに関わる言葉と考えたい。

□ 石川裕敏


□ 略歴
1968 大阪府生まれ
1991 大阪芸術大学芸術学部美術学科卒業

個展
1991 ギャラリー白                   (大阪)
1992 ギャラリー白                   (大阪)
1993 ギャラリーココ                  (京都)
1994 ギャラリー白                   (大阪)
1995 ギャラリー白                   (大阪)
1996 ギャラリー白                   (大阪)
1997 ギャラリー白                   (大阪)
2001 WATERSIDE       (ギャラリーエスプリヌーボー・岡山)
   The sign of water          (ギャラリー白・大阪)
   The general weather conditions     (日下画廊・大阪)
2002 TENBA−A                  (大阪)
   The sign of waters  (ギャラリーエスプリヌーボー・岡山)
2004 The sign of waters  (ギャラリーエスプリヌーボー・岡山)
2005 The sign of waters           (天野画廊・大阪)
2007 The sign of waters  (ギャラリーエスプリヌーボー・岡山)
2008 General weather conditions
       (ギャラリー&スペースDELLA−PACE・神戸)

グループ展
1991 Orphan Drug            (ギャラリーココ・京都)
   NEW FACE       (ギャラリーVIEW・大阪)
   BEYOND            (ギャラリー白・大阪)
   翠雨の旋律             (ギャラリー白・大阪)
1993 LINE−循環としてのマトリックス
                 (クリスタルギャラリー・大阪)
1994 イメージの鍛練           (ギャラリー白・大阪)
   アートナウ’94−啓示と時間 (兵庫県立近代美術館・神戸)
1996 ペインタリネス II         (ギャラリー白・大阪)
   アーティストファイル   (愛知芸術文化センター・名古屋)
1997 1ダースの水槽       (ガレリアフェナルテ・名古屋)
   現代美術10人展         (京阪ギャラリ−・守口)
1998 アーティストファイル   (愛知芸術文化センター・名古屋)
1999 Compact Disc−CDというメディアの響宴
              (神戸アートビレッジセンター・神戸)
   Radiant Ocuurrence−放射する出来事
            (名古屋芸術大学ギャラリーBE・名古屋)
2000 水辺−Insight of side          (日下画廊・大阪)
2001 ペインタリネス V         (ギャラリー白・大阪)
2002 VOCA展2002        (上野の森美術館・東京)
2003 呼吸−breath            (ギャラリー白・大阪)
   京都・洋画の現在−85人の視点  (京都文化博物館・京都)
   絵画を見る2           (ギャラリー白3・大阪)
2004 DELICACY   (ギャラリーエスプリヌーボー・岡山)
2005 第12回ソウルインターナショナルアートフェスティバル 2005
                (朝鮮日報社ギャラリー・ソウル)
2006 ペインタリネス2006
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
2007 ペインタリネス2007
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
   JAMIN      (ギャラリーエスプリヌーボー・岡山)
   百花繚乱展       (兵庫県立美術館ギャラリー・神戸)
2008 絵画的絵画     (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)

パブリックコレクション
関西国際大学
松下電気株式会社
タピエ
ワイズコーポレーション

□ 山部泰司


1958 岡山県生まれ
1981 京都市立芸術大学美術学部美術科卒業
1983 京都市立芸術大学大学院美術研究科修了

個展
1981 ギャラリー白                   (大阪)
   ['82,'84,'85,'88,'90,'91,93','94,'95,'96,'97,
   '98,'99,''01,'07]
1983 ギャラリーすずき                 (京都)
   ['87]
1987 ギャラリーインスクエア            (アメルカ)
1989 ギャラリーAD&A                (大阪)
1991 ギャラリーココ                  (京都)
   ['95,'98,'99,'00]
1991 ギャラリーVIEW                (大阪)
1992 ヨシミツヒジカタギャラリー           (名古屋)
1993 ギャラリーQ                   (東京)
   ['01]
1997 Xa104ロードサイドギャラリー         (広島)
2000 ギャラリーエスプリヌーボー            (岡山)
   ['01,'02,'04]
2000 ギャラリークラヌキ                (大阪)
2004 村松画廊                     (東京)
   海岸通ギャラリーCASO             (大阪)
2005 LADS GALLERY             (大阪)
   ['06,'07(2回開催)]
2008 奈義町現代美術館                 (岡山)

グループ展
1982 スピリチュアルポップ  (大阪府立現代美術センター・大阪)
   フジヤマゲイシャ   (京都市立芸術大学ギャラリー・京都)
                  (東京芸術大学展示室・東京)
   YES ART           (ギャラリー白・大阪)
   [〜'90]
1985 都市に隠れた動物たち  (大阪府立現代美術センター・大阪)
1986 アートナウ’86       (兵庫県立近代美術館・神戸)
1987 アーチストネットワークエキスパンデット
                    (福岡県立美術館・福岡)
   大阪現代アートフェア  (大阪府立現代美術センター・大阪)
1988 花の表現           (埼玉県立近代美術館・埼玉)
   アクリラート展             (O美術館・東京)
   今日の作家展−多極の動態  (横浜市民ギャラリー・神奈川)
1989 次代を担う作家展      (京都府立文化芸術会館・京都)
   ARMS−芸術の腕      (ハイネケンビレッジ・東京)
1990 アートナウ−関西の80年代展 (兵庫県立近代美術館・神戸)
1994 日本の現代美術の断面       (現代ギャラリー・韓国)
1995 現代美術の展望−VOCA’95  (上野の森美術館・東京)
   片山雅史・山部泰司展 (Deutsche Bank・東京)
1996 現在絵画3つの表情     (京都市四条ギャラリー・京都)
1997 CONTEMPLATION
          (ワールドワークスファインアート・アメリカ)
2003 京都・洋画の現在         (京都文化博物館・京都)
2004 金景漢・山部泰司展   (LADS GALLERY・大阪)
2005 MUSEUM LABORATORY 2005 (海岸通ギャラリーCASO・大阪)
2006 藤本裕紀・山部泰司メタリック☆展(ギャラリーなうふ・岐阜)
2007 百花繚乱展       (兵庫県立美術館ギャラリー・神戸)
2008 マキイセレクション2×4 Vol.2−異相の花園
              (マキイマサルファインアーツ・東京)
2008 絵画的絵画     (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)

受賞
1989 次代を担う作家展 優秀賞

□ 渡辺智子


1963 奈良県生まれ
1986 京都市立芸術大学美術学部美術科卒業
1988 南米(ペルー,ボリビア)に約8ケ月滞在

個展
1992 オンギャラリー                  (大阪)
1994 ギャラリーココ                  (京都)
1997 フジマルギャラリー                (東京)
1998 ギャラリーココ                  (京都)
2001 複眼ギャラリー                  (大阪)
2003 ギャラリー白                   (大阪)
2007 ギャラリー白                   (大阪)

グループ展
1985 HOT CARD SHOW         (ギャラリーVIEW・大阪)
1986 BOX MAKER'S SHOW       (ギャラリーVIEW・大阪)
   岡田久美子・石田智子2人展−柵のない庭から
                     (ギャラリーF・京都)
1989 表現展            (八日市文化芸術会館・滋賀)
   [〜'99]
1990 Happy X'mas presents show    (ギャラリーすずき・京都)
   [〜'93]
1991 上野の森美術館大賞展       (上野の森美術館・東京)
1994 ドローイングジャム      (ウーファギャラリー・京都)
1995 ミニアチュール展         (ギャラリーココ・京都)
1996 小品展            (AD&Aギャラリー・大阪)
1998 DRAWINGS        (ギャラリーそわか・京都)
1998 現代美術小品展         (ギャラリーすずき・京都)
   [〜'02]
1999 3 WEEKS FOR 20 PAINTINGS     (ギャラリーココ・京都)
   CDというメディアの響宴
              (神戸アートビレッジセンター・神戸)
   ドローイング展         (ギャラリーそわか・京都)
2000 ACRIL AWARD          (ギャラリークラヌキ・大阪)
   Mixed Up !       (複眼ギャラリー,FUKUGAN+・大阪)
2001 月吠現代美術展 Vol.19     (折衷庵月吠・奈良)
   オープニングフェスタ展    (AD&Aギャラリー・大阪)
2002 パレット展          (ギャラリーマロニエ・京都)
   月吠現代美術展 Vol.25     (折衷庵月吠・奈良)
2004 saji+yoji             (HANABE・兵庫)
   oil on paper    (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
   DRAWINGS        (ギャラリーそわか・京都)
   saji+yoji              (HANARE・兵庫)
2005 月吠現代美術展 Vol.33     (折衷庵月吠・奈良)
   oil on paper            (ギャラリー白・大阪)
2006 oil on paper            (ギャラリー白・大阪)
   リトルストーリーズ        (複眼ギャラリー・大阪)
2007 光のFM−渡辺信明×渡辺智子     (折衷庵月吠・奈良)
2008 月吠現代美術展 Vol.42     (折衷庵月吠・奈良)
   drawing on paper          (ギャラリー白・大阪)
   絵画的絵画     (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)