ペインタリネス
(テキスト 尾崎信一郎)

石川裕敏・大城国夫・佐藤有紀・渡邉野子


2009.7.6-7.18 ギャラリー白




■ テキスト

「ペインタリネス」を擁護して

 今年も「ペインタリネス」が開かれることとなった。既に10回を超えるこの展覧会では毎回、関西の若手と中堅の中から画廊によって選抜された7、8名の画家が新作を会場に展示する。選抜といっても、何らかの基準に沿って作家が選ばれるというよりも、一つの母集団の中から毎回少しずつメンバーを違えて出品作家が決定されるといった趣きがあり、私にとっては信頼できる画家たちの作風のゆるやかな展開をいわば定点観測する場のように感じられてきた。今年も昨年に続いて出品する画家もいれば、久しぶりに出品する画家もいる。しかし私にとってはいずれもよくなじんだ作家と作品である。
 この展覧会のパンフレットに私はこの数年、寄稿させていただいている。通常であれば複数の作家について何か意味のあることを論じるのはかなり苛酷な仕事であるが、今述べたような理由によって、私は何かを声高に主張したり、絵画の新たな方向をことさらに指し示す必要がなく、作家たちの資料を見ながら絵画という営みについてさまざまに思いをめぐらす楽しい機会となっている。今回はやや原理的な観点から彼らの絵画について論じてみよう。それというのも「ペインタリネス」に寄せる四回目のテクストとなるこの文章をどのように書き始めようかと思案を重ねていた最中に偶然、絵画をめぐる一つの幸福な出会いがあったからだ。
 作品を前に魂が震えるような体験をすることは日本の美術館ではあまりないが、先日、訪れたマーク・ロスコのシーグラム壁画を再現した展示で私は久しぶりに絵画の圧倒的な力に触れた思いがした。自然光が注ぐホワイトキューブの中に配置された赤褐色の巨大な色面はまさに絵画として自らを顕示していた。絵画として在るということは、言い換えるならばそれ以外のなにものとしても存在しないということである。それは何かの物語を語るのでもなく、理念を提示するのでものなく、画家や批評家の思想を図解するのでもない。しかしかかる絵画は容易に実現できるものではない。絵具で塗られた、一定の広がりをもつ支持体がこれほどの力をはらむためには、絵画に対する深い信頼が前提とされるのではないだろうか。私たちは絵画に何かを託す、絵画をとおして何かを語ることに慣れてしまった。この場合、絵画は言葉であり、道具である。しかしロスコにとって絵画とは何かに置き換えられることのない絶対的な存在なのである。
 「ペインタリネス」に出品された作品を一つの観点から総括することは難しい。しかし以上述べたことと関連させて論じるならば、これらの作家たちは絵画を何かの道具として用いるのではなく、それ自体を目的とする点で一致している。彼らが抽象表現に拘泥することはこの点と関わっている。今日、抽象/具象を対立とみなし、両者の優劣を比較することに私は大きな意味があるとは思わない。しかし幼稚な具象表現が絵画の主流を形成する今日、あえて抽象を選ぶことはそれ自体が積極的、意志的な姿勢である。そして抽象という表現も時代の刻印を受ける。彼らが用いる抽象とはもはや70年代のミニマリズムにみられた無機的、機械的なそれではない。80年代以降、表現の方法に意識的な画家たちは自発的な線、構築的な色面の可能性を再び探求してきた。ここに展示された作品の多くも線と面、ストロークや筆触といった絵画の基本的な構成要素をそれぞれ独自に表現の中に取り込み、多くの場合、素材の物質性をとおしてイメージが賦活されている。これらの要素がいずれも絵画というメディウム固有の問題である点に注目しよう。それにしても絵画の基盤と深く関わるこれらの問題が今日、美術批評の言葉の中からほとんど駆逐されてしまったことに私はあらためて深い当惑を覚える。行為としてのイメージと似姿としてのイメージ、イメージと物質の葛藤、絵画と展示された空間の関係。これらの問題は80年代後半において絵画の実践の場でいくつかの焦点を結んだ後、少なくとも日本においては絵画の主流の中で深められることなく、今日にいたっている。絵画の批評に携わる者として私はこのような状況を残念に感じる。そしてそれゆえに今日もなお真摯に絵画をその固有の形式において探求する画家たちの着実な発表に励まされる思いがするのである。
 「ペインタリネス」とはまことに適切な命名ではなかろうか。これらの絵画を昨今隆盛する幼稚な具象絵画、自虐的なイメージ、病的なドローイングと分かつのは、大文字の絵画への信頼であり、なにものとも置き換えることのできない表現として絵画に取り組む姿勢である。知られているとおり、「ペインタリー」とはロスコを含む一群の色面抽象絵画の特質に対して与えられた名前である。ミニマリズムという終点を経過して、絵画は常に進化しなければならないという強迫観念から私たちは自由になった。今日、絵画という可能性に深い信頼を置く作家たちが20世紀絵画のつの絶頂である50年代のニューヨーク、ペインタリーな抽象絵画の精神に立ち戻ってならない理由はない。

(おさき・しんいちろう 鳥取県立博物館副館長)




□ 石川 裕敏 Ishikawa Hirotoshi



□ 略歴

1968

大阪に生まれる

1991

大阪芸術大学芸術学部美術学科卒業

 

個展

1991

ギャラリー白

(大阪)

1992

ギャラリー白

(大阪)

1993

ギャラリーココ

(京都)

1994

ギャラリー白

(大阪)

1995

ギャラリー白

(大阪)

1996

ギャラリー白

(大阪)

1997

ギャラリー白

(大阪)

2001

「WATERSIDE」

(ギャラリーエスプリヌーボー:岡山)

「The sign of waters」

(ギャラリー白:大阪)

「The general weather conditions」

(日下画廊:大阪)

2002

TENBA-A

(ギャラリー白:大阪)

2002

「The sign of waters」

(ギャラリーエスプリヌーボー:岡山)

2004

「The sign of waters」

(ギャラリーエスプリヌーボー:岡山)

2005

「The sign of waters」

(天野画廊:大阪)

2006

「The sign of waters」

(ギャラリーエスプリヌーボー:岡山)

2008

「General weather conditions」

 

(ギャラリー&スペース DELLA-PACE:兵庫)


グループ展

1991

Orphan Drug

(ギャラリーココ:京都)

 

NEW FACE

(ギャラリーVIEW:大阪)

 

BEYOND

(ギャラリー白:大阪)

 

翠雨の旋律

(ギャラリー白:大阪)

1993

LINE−循環としてのマトリックス−

 

(クリスタルギャラリー:大阪)

1994

イメージの鍛練

(ギャラリー白:大阪)

アート・ナウ'94

(兵庫県立近代美術館:兵庫)

1996

ペインタリネスU

(ギャラリー白:大阪)

 

アーティストファイル

(愛知芸術文化センター:愛知)

1997

1ダースの水槽

(ガレリアフェナルテ:愛知)

現代美術10人展

 

(京阪ギャラリー・オブ・アーツ・アンド・サイエンス:大阪)

1998

アーティストファイル

(愛知芸術文化センター:愛知)

1999

Radiant Ocuurrence−放射する出来事−

 

(名古屋芸術大学ギャラリーBE:愛知)

 

Compact Disc−CDというメディアの響宴−

 

(神戸アートビレッジセンター:兵庫)

2000

水辺−Insight of side−

(日下画廊:大阪)

2001

ペインタリネスX

(ギャラリー白:大阪)

2002

VOCA展2002

(上野の森美術館:東京)

2003

Fine Edge

(ギャラリーエスプリヌーボー:岡山)

呼吸−breath−

(ギャラリー白:大阪)

京都・洋画の現在〜85人の視点

(京都文化博物館:京都)

絵画を見る2

(ギャラリー白:大阪)


2004

DELICACY

(ギャラリーエスプリヌーボー:岡山)

2005

21 C ICAA 第12回ソウル・インターナショナル アート・フェスティバル2005

 

(朝鮮日報社ギャラリー:韓国)

2005

International Environment Art Expo Korea 2005

 

(SAM SUNG COEX CONVENTION HALL:韓国)

2006

ペインタリネス2006

(ギャラリー白:大阪)

2007

ペインタリネス2007

(ギャラリー白:大阪)

JAMIN

(ギャラリーエスプリヌーボー:岡山)

架空通信 百花繚乱展

(兵庫県立美術館ギャラリー棟:兵庫)

2008

絵画的絵画

(ギャラリー白:大阪)

JAMIN 2

(ギャラリーエスプリヌーボー:岡山)

パブリックコレクション

 

関西国際大学(三木市)

 

旧松下電気株式会社人材開発センター(枚方市)

 

タピエ(大阪/東京)

 

ワイズコーポレーション(岡崎市)




□ 大城 国夫 Oshiro Kunio



□ 略歴

1956

大阪に生まれる

1980

京都市立芸術大学美術学部日本画科卒業

 

個展

1984

画廊みやざき

(大阪)

1988

ギャラリー白

(大阪)

1989

ギャラリー白

(大阪)

1990

ギャラリー白

(大阪)

1991

ギャラリー白

(大阪)

1992

ギャラリー白

(大阪)

1993

ギャラリー白

(大阪)

1994

ギャラリー白

(大阪)

1995

ギャラリー白

(大阪)

1996

ギャラリー白

(大阪)

1997

ギャラリー白

(大阪)

1998

ギャラリー白

(大阪)

1999

ギャラリー白

(大阪)

2000

ギャラリー白

(大阪)

2001

ギャラリー白

(大阪)

2004

ギャラリー白

(大阪)

2005

ギャラリー白

(大阪)

2006

番画廊

(大阪)

 

ギャラリー白

(大阪)

2007

ギャラリー白

(大阪)


グループ展

1987

宮本和彦・大城国夫展

(ギャラリー白:大阪)

1989

宮本和彦・大城国夫展

(ギャラリー白:大阪)

1990

マティエールの異種交配

(ギャラリー白:大阪)

1997

ペインタリネスV

(ギャラリー白:大阪)

2001

第11回吉原治良賞美術コンクール展

 

(大阪府立現代美術センター:大阪)

ペインタリネスX

(ギャラリー白:大阪)

2002

アートスカラシップ2001

(exhibt LIVE:東京)

第15回現代日本絵画展

(宇部市文化会館:山口)

第7回風の芸術展 トリエンナーレまくらざき

 

(枕崎市文化資料センター:鹿児島)

2003

比良から新しい風が〜Part25

(比良美術館:滋賀)

第15回現代日本絵画展

(宇部市文化会館:山口)

2004

第15回現代日本絵画展

(宇部市文化会館:山口)

ペインタリネス2004

(ギャラリー白:大阪)

2006

ペインタリネス2006

(ギャラリー白:大阪)

2007

thing matter time 2007

(信濃橋画廊:大阪)

「明日の美術を見つめて」展

(比良美術館:滋賀)

ペインタリネス2007

(ギャラリー白:大阪)

架空通信 百花繚乱展

(兵庫県立美術館ギャラリー棟:兵庫)

現代美術小品展

(ギャラリーすずき:京都)

2008

現代美術−茨木ミニアチュール展

(茨木市立ギャラリー:大阪)

thing matter time 2008

(信濃橋画廊:大阪)

ペインタリネス2008

(ギャラリー白:大阪)

架空通信 百花繚乱展

(兵庫県立美術館ギャラリー棟:兵庫)

2009

thing matter time 2009

(信濃橋画廊:大阪)


パブリックコレクション

 

日本ヒューレット・パッカード神戸事業所(兵庫)




□ 佐藤 有紀 Sato Yuki



□ 略歴

1970

岡山に生まれる

1994

大阪教育大学教養芸術学科卒業

1996

京都市立芸術大学大学院美術研究科修了

 

個展

1994

ギャラリー白

(大阪)

1995

信濃橋画廊

(大阪)

1996

ギャラリー白

(大阪)

1998

ギャラリー白

(大阪)

2000

ギャラリー白

(大阪)

2002

タピエスタイル

(大阪)

2003

ギャラリーwks.

(大阪)

2004

ギャラリー白

(大阪)

2005

現代中国藝術センター

(大阪)

タピエスタイル

(大阪)

2006

タピエスタイル

(大阪)

2007

海岸通ギャラリーCASO

(大阪)


グループ展

1993

グループ展

(茶屋町画廊:大阪)

1994

NEW FACE

(ギャラリーView:大阪)

1996

ペインタリネスU

(ギャラリー白:大阪)

京都市立芸術大学大学院修了制作展

(京都市美術館:京都)

1998

ペインタリネスW

(ギャラリー白:大阪)

1999

京阪沿線より発信 現代美術10人展

 

(京阪ギャラリー・オブ・アーツ・アンド・サイエンス:大阪)

infinity's origin

(ギャラリー石彫:兵庫)

ASPOSTORPHE ART

(ギャラリー石彫:兵庫)

2000

ASPOSTORPHE ART

(ギャラリー石彫:兵庫)

グループ展

(ギャラリーぶらんしゅ:大阪)

グループ展

(タピエスタイル:大阪)

infinity's origin

(ギャラリー石彫:兵庫)

2001

ペインタリネスX

(ギャラリー白:大阪)

ART IN ART JAPAN

(姫路市美術館:兵庫)

2003

絵画を見る2

(ギャラリー白:大阪)

2004

Drawings

(ギャラリーそわか:京都)

2005

Drawings

(ギャラリーそわか:京都)

2006

ペインタリネス2006

(ギャラリー白:大阪)

2007

ペインタリネス2007

(ギャラリー白:大阪)

2008

絵画的絵画

(ギャラリー白:大阪)


受賞

1996

京都市立芸術大学大学院修了制作展<市長賞>




□ 渡邉 野子 Watanabe Naoko



□ 略歴

1970

京都に生まれる

1993

京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻卒業

1995

京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻油画修了

2002-2004

クンストアカデミー・デュッセルドルフ在籍(ドイツ)

2003-2004

文化庁「新進芸術家海外留学制度」在外研修員としてドイツにて研修

 

個展

1993

galerie16

(京都)

1994

ギャラリー白

(大阪)

1995

ギャラリー白

(大阪)

ギャラリーウー

(大阪)

1997

galerie16

(京都)

1998

ギャラリー白

(大阪)

ギャラリーウー

(大阪)

2000

ギャラリー白

(大阪)

セゾンアートプログラム SAP GRANT
第1回“美術家助成プログラム”受賞記念展

 

(セゾンアートプログラムギャラリー:東京)


グループ展

1996

ペインタリネスU

(ギャラリー白:大阪)

1998

ペインタリネスW

(ギャラリー白:大阪)

1999

言葉よりも奏鳴な秩序

(Oギャラリー:東京)

2000

あそびじゅつ展−現代美術の世界へ−

(西武ギャラリー:東京)

2001

ペインタリネスX

(ギャラリー白:大阪)

 

筆触のポリティクス−<絵画らしさとは何か?>
小林康夫によるセゾン現代美術館コレクション展

 

(セゾン現代美術館:長野)

2002

2002新鋭美術選抜展

(京都市美術館:京都)

2006

第24回上野の森美術館大賞展

 

(上野の森美術館:東京/彫刻の森美術館:神奈川/ 
福岡市美術館:福岡/京都府京都文化博物館:京都)

ART TODAY 2006

(セゾン現代美術館:長野)

2007

第24回上野の森美術館大賞展入賞者展

 

(上野の森美術館ギャラリー:東京)

ペインタリネス2007

(ギャラリー白:大阪)

京展

(京都市美術館:京都)

第20回記念美浜美術展

 

(関西電力原子力事業本部ギャラリー:福井/ 
大阪府立現代美術センター:大阪/福井県立美術館:福井)

2008

ペインタリネス2008

(ギャラリー白:大阪)

京展

(京都市美術館:京都)


受賞

2000

セゾンアートプログラム/
SAP GRANT 第1回「美術家助成プログラム」

2000

ホルベイン工業株式会社/ホルベインスカラシップ

2003

文化庁/
平成15年度「新進芸術家海外留学制度」芸術家在外研修員

2006

第24回上野の森美術館大賞展<優秀賞(ニッポン放送賞)>

2007

第20回記念 美浜美術展<美浜町長賞>


パブリックコレクション

 

上野の森美術館(東京)

 

財団法人セゾン現代美術館(長野)