清水 六兵衞 展
KIYOMIZU Rokubei


2010.12.13-12.25 (12.19 close)
ギャラリー白



ある覚え書きとして

 八代清水六兵衞は今回の個展に当たり、ここ数年の制作を踏まえ、設置された画廊の空間全体を受容する作品の構想をあたためている。それは、2002年にギャラリー白の個展での《Space Receptor 2002-A》などに代表される柱状の造形、そして2007年に第22回現代日本彫刻展(宇部市)で発表された地表面に立方体のブロックが擂鉢状(全体の格好は方形だが)に展開する《光の受容器-2007》を引き継ぐものとなるだろう。このような彼の志向は以前から見ることができる。たとえば、1996年のマスダスタジオ(東京)での個展で発表された2点の《RELATION》はいずれも陶のユニットを柱状に積み上げ、またその「周囲」に別のパーツを配するという、二つの構成要素、そしてそれを取り巻く空間から成り立っている点において、現在の清水の制作を考える上で重要な位置にある。ただし、当時はもっぱら自ら作り出す「かたち」が周囲に影響を及ぼすことで空間の異化を図っていた。今日ではその傾向は抑えられ、自らが作る「もの」とそれが設置される「空間」の関係はより近しいものとなっている。
 ところで、清水の造形について考える際、その外見から淵源を考察しても、かつて尾﨑信一郎氏が記したように、20世紀の動向と結びつけることがせいぜいである。しかしながら、マテリアルは単に構想を実体化させる「素材=もの」ではなく、過去の先人たちの記憶を包含した存在であるという考えに立つ場合、彼の「空間を受容する(あるいは、交感する)器」の源泉は何世紀も前に遡る。  太古の土偶や埴輪は措くとして、この国の立体造形のあゆみについて見ると、振幅はあるにせよ飛鳥から奈良、平安を過ぎて鎌倉期まで、時代精神が反映された、いい作例が遺されている。そのほとんどが仏教彫刻であるが、鎌倉期を区切りとして明治期を迎えるまでの長い間、数人の異能の作り手を見ることができるにせよ、全体として沈滞した観は否めない。
 仏教彫刻の沈滞と入れ替わるかのようにわたしたちの前に現れる存在が、茶陶を中心としたやきものである。鎌倉期における喫茶の将来が端緒となり、そのなかから室町に入り天目や龍泉窯系の青磁唐物によって美的価値判断の体系が作り上げられた。しかしこの時代の中期、15世紀に入ると村田珠光がいわゆる「珠光青磁」や国焼を見出しており、桃山期には高麗茶盌を経、千利休そして長次郎による樂茶盌が創られた。これは、奈良から平安初期にかけての仏教彫刻の変化に見られた、受容から消化、定着という動きと同じである。
 この過程にあって重要な点は、茶陶を生み出した日本人たちが、茶盌をたんなる回転体の容器と見なしていなかったことだ。ゆがみや表面に対する関心は、単なる意匠の面白さに止まらず、茶盌という一箇の「もの」の中に彫刻と同じ構造体のすがたを見出したことを裏付ける。この小文では、仏教彫刻から茶盌への転換に関わる精神史的裏付について、禅宗の受容とその伝播、そしてそれぞれの時代相が深く関わっていたことを挙げ、その存在の指摘のみに止めるが、可視化された佛の姿にではなく、より抽象的なありようの中に日本人の造形精神がそそがれたことは、今日まで遺されている「もの」が雄弁に物語っている。そして、その形状。飯を盛り、茶を点てるために出来上がった(発見された)かたちは、周囲の空間との関連を強く意識する「もの」になった。飯や茶だけではなく、そこには空間と、作り手たちの思想が盛り込まれている。
 長次郎以後、作り手たちの貌は多士済々である。過去を継承、あるいは発展させ、時に原点へと立ち戻る姿は、そのまま創造的精神の健やかな運動である。明治期以降、この運動を現代のコトバによって新たに捉え直した作り手が、八木一夫・山田光・鈴木治という走泥社を興した面々であり、そしてまた七代清水六兵衞だった。彼らは同時代の彫刻の動向をも参照しつつ、前者は1950年代に器とその周囲の空間との関わりについて論議し、後者は60年代、具体的に器物が「部分」より成り立っていることについて実作を通して再確認を行っている。付け加えるならば、彼らは器の周囲に存在する空間もまた「もの」であるという認識において(程度にばらつきがあったにせよ)、共通していた。
 八代清水六兵衞が、柾博の名で自作を発表した1980年代初頭から今日まで、その造形は八木たちの考察と先代の試みに連なっている。すなわち、清水が自作においてしばしば用いる「作品=もの」の内と外の空間をスリットによって結びつける手法は八木たちが切り拓いた視点に立脚し、立方体における任意の面の撓みが撓みであることの必然は、先代の制作を前史として見ることができる。  清水が足場としているものは、単なる踏襲ではない。彼みずからの造形思考の中に先人たちの営為を読み解くことが可能である点において、血肉化されている。過去と共鳴する精神の運動が、ここにはある。


(わらしなひでや/千葉市美術館)



□ 略歴

1954

京都市生まれ

1979

早稲田大学理工学部建築学科卒業

2000

八代 清水六兵衞を襲名

現在

国際陶芸アカデミー(IAC)会員

 

個展

1985

マスダスタジオ

(東京)

1987

ギャラリー白

(大阪)

1988

マスダスタジオ

(東京)

京都朝日サロン

(京都)

1989

ギャラリーなかむら

(京都)

INAXギャラリー

(東京)

1990

渋谷西武百貨店

(東京)

浜松西武百貨店

(静岡)

1991

ギャラリー白

(大阪)

ギャラリーなかむら

(京都)

1992

マスダスタジオ

(東京)

1993

京都市四条ギャラリー

(京都)

ギャラリーなかむら

(京都)

ギャラリー小柳

(東京)

1994

メモリーズギャラリー

(愛知)

1995

栃木県総合文化センター

(栃木)

原画廊

(茨城)

1996

マスダスタジオ

(東京)

鳥取大丸百貨店

(鳥取)

ギャラリーなかむら

(京都)

1997

伊勢丹新宿店

(東京)

1998

コンテンポラリーアートNIKI

(東京)

1999

ギャラリーなかむら

(京都)

ギャラリー彩陶庵

(山口)

世界のタイル博物館企画展示室

(愛知)

伊丹市立工芸センター

(兵庫)

2000

守山市民ホール

(滋賀)

ギャラリーK

(岡山)

2001

京都高島屋

(京都)

日本橋高島屋

(東京)

2002

祇をん小西

(京都)

益田ギャラリー

(東京)

2003

ギャラリー白

(大阪)

ギャラリー十玄門

(東京)

2004

ギャラリー白

(大阪)

イムラアートギャラリー

(京都)

2005

大阪高島屋

(大阪)

横浜高島屋

(神奈川)

米子高島屋

(鳥取)

ギャラリー白

(大阪)

2007

京阪百貨店守口店

(大阪)

2008

大丸心斎橋店美術画廊

(大阪)

ギャラリー白

(大阪)

2009

大丸心斎橋店美術画廊

(大阪)

米子高島屋

(鳥取)

2010

ギャラリー白

(大阪)


グループ展

1983

朝日陶芸展 '83

1986

第14回中日国際陶芸展

朝日陶芸展 '86

汎世界創作陶芸展

(ニューコア百貨店:ソウル)

セラミック・アネックス・シガラキ'86

(滋賀県立近代美術館ギャラリー:滋賀/信楽伝統産業会館:滋賀)

第1回国際陶磁器展 美濃 '86

1988

八木一夫賞'88 現代陶芸展

1989

秋山陽・清水柾博・福本繁樹展

(ABCギャラリー:大阪)

八木一夫賞'89 現代陶芸展

清水柾博・長江重和 二人展

(京都大丸:京都)

日韓青年陶芸作家交流展

(京都クラフトセンター:京都)

第2回国際陶磁器展 美濃 '89

ユーロパリア'89-日本「昭和の陶芸-伝統と革新」展

(モンス市立美術館:ベルギー)

1990

陶芸の現在-京都から

(高島屋:東京/横浜/大阪/京都)

土の造形

(栃木県立美術館:栃木)

韓日青年陶芸作家交流展

(錦湖美術館:ソウル)

現代の陶芸

(和歌山県立近代美術館:和歌山)

1991

京都工芸の新世代

(松屋銀座:東京)

平成陶芸の全貌と展望展

(天満屋:岡山/福山/米子/広島)

日韓青年陶芸作家交流展

(ギャラリーマロニエ:京都)

ミーム・プール展

(小原流会館:東京)

若き旗手達-陶芸

(伊丹市立工芸センター:兵庫)

1992

韓日青年陶芸作家交流展

(土アートスペース:ソウル)

陶芸の現在-京都から

(高島屋:東京/京都/大阪/横浜)

陶芸の現在性展

(神戸西武百貨店:兵庫/池袋西武百貨店:東京)

第3回「次代を担う作家」展

(京都府立文化芸術会館:京都)

1993

芸術祭典・京-変貌する森

(下鴨神社:京都)

現代の陶芸 1950-1990

(愛知県立美術館:愛知)

第48回ファエンツァ国際陶芸展

(ファエンツァ:イタリア)

日本・韓国現代造形作家交流展

(大阪府立現代美術センター:大阪)

1994

平安建都1200年記念 美術選抜展

(京都市美術館:京都)

京都創作陶芸のながれ

(京都文化博物館:京都)

セラミック・アネックス・シガラキ'94

(滋賀県立近代美術館ギャラリー:滋賀)

クレイワーク

(国立国際美術館:大阪)

1995

現代・京都の工芸

(京都文化博物館:京都)

第49回ファエンツァ国際陶芸展

(ファエンツァ:イタリア)

1996

写楽再見

(国際交流フォーラム:東京)

IAC '96 JAPAN 国際陶芸アカデミー会員展

(佐賀県立美術館:佐賀)

1997

SIDNEY MYER FUND INTERNATIONAL CERAMICS AWARD

(HEPPARTON ART GALLEY:オーストラリア)

1998

'98新鋭美術選抜展

(京都市美術館:京都)

陶芸の現在的造形

(リアス・アーク美術館:宮城)

賀県立陶芸の森創作研修館(信楽)にて制作

1999

森で生まれた作品展-アーティストインレジデンスから1998

(滋賀県立陶芸の森陶芸館:滋賀)

なんてき・れ・い なんて不思議-釉薬の表現と陶芸美

(滋賀県立陶芸の森陶芸館:滋賀)

日本現代陶芸展-前衛の動向

(ファン・ボンメル・ファン・ダン・フェンロ市立美術館:オランダ)

現代陶芸の精鋭

(茨城県陶芸美術館:茨城)

京都の工芸 1945-2000

(京都国立近代美術館:京都/東京国立近代美術館工芸館:東京)

2002

タカシマヤ美術賞展

(高島屋:東京/横浜/大阪/京都)

国際現代陶芸招待展

(台北縣立鶯歌陶瓷博物館:台湾)

現代陶芸100年展

(岐阜県現代陶芸美術館:岐阜)

2003

日陶芸作家交流展2003

(ギャラリーサガン:ソウル)

2003現代韓日陶芸展-共生をめざして

(錦湖美術館/錦湖アートギャラリー:ソウル)

九州・京都陶芸八人の会

(福岡アジア美術館交流ギャラリー:福岡)

2004

カイロスの時・空・間

(瀬戸市新世紀工芸館:愛知)

国際交流邀請展

(中国美術館:北京)

清水六兵衞歴代展

(千葉市美術館:千葉)

2005

やきもの新感覚シリーズ・50人

(セントレアギャラリー:愛知)

林邦佳・清水六兵衞・田嶋悦子展
-2004年度日本陶磁協会賞受賞記念

(和光:東京)

疎通・拡散

(ミラル美術館:ソウル)

2006

黒田克正×清水六兵衞-物質と意識の磁場

(ギャラリーなかむら:京都)

CERAMICS beyond borders

(National Library:シンガポール)

2007

<素材×技術>からフォルムへ-陶

(ギャラリーヴォイス:岐阜)

第22回現代日本彫刻展'07

(宇部市野外彫刻美術館:山口)

2008

黒田克正×清水六兵衞-物質と意識の磁場PartII

(ギャルリー東京ユマニテ:東京)

京都工芸の精華展

(京都芸術センター:京都、エスパース ベルタン ポアレ:パリ)

2009

OAP彫刻の小径2009 汽水域

(アートコートギャラリー:大阪)

2009

第4回パラミタ陶芸大賞展

(パラミタミュージアム:三重)

2010

IAC会員展

(セーブル国立陶磁美術館:パリ)


受賞

1983

朝日陶芸展'83 グランプリ受賞

1986

第14回中日国際陶芸展 外務大臣賞

1986

朝日陶芸展 '86 グランプリ受賞

1988

京都市芸術新人賞受賞

八木一夫賞 '88 現代陶芸展 優秀賞

1989

八木一夫賞'89 現代陶芸展 読売賞

1992

第3回「次代を担う作家」展 大賞受賞

1993

京都府文化賞 奨励賞受賞

1997

SIDNEY MYER FUND INTERNATIONAL CERAMICS AWARD Poyntzpass Pioneers Ceramics Award 受賞

1999

タカシマヤ美術賞受賞

2005

2004年度日本陶磁協会賞受賞

2009

京都府文化賞 功労賞 受賞


パブリックコレクション

 

東京国立近代美術館

 

国立国際美術館

 

国際交流基金

 

京都府文化博物館

 

京都市美術館

 

和歌山県立近代美術館

 

滋賀県立陶芸の森

 

高松市立美術館

 

岐阜県現代陶芸美術館

 

茨城県陶芸美術館

 

エバーソン美術館(アメリカ)

 

大英博物館(イギリス)

 

台北市立美術館(台湾)

 

プラハ装飾美術館(チェコ)

 

王立オンタリオ美術館(カナダ)

 

シェパートンアートギャラリー(オーストラリア)

 

セーブル国立陶磁美術館(フランス)

 

ケラミオン美術館(ドイツ)

 

京都迎賓館

 

ベキーナ美術館(ギリシャ)

 

中国美術館(中国)