膨大なエネルギーを湛えた土という生き物に対し、自身の生き様を激しくぶつけていくことで、生々しくも切実な自己の内面を映し出していく。前田晶子の陶の作品は、その痕跡である手跡で覆われ、ざらざらとした土の質感も顕わに、作者の力と素材の力が渾然一体となって立ち上がっていくダイナミックな造形が特徴である。そこには苦悩する一人の人間の姿と、大地に根を張り、周囲を侵食していく逞しい樹木のようなイメージが交錯し、人間と自然、それぞれの深淵に触れたいという、作者の強い思いがひしひしと伝わってくるようだ。しかし、「パンドラの箱」を作り始めた数年前から、作者の中で何かが解放されたのだろうか。植物などの形態を借りながらも抽象的なかたちから、箱や鍵といった「用」を持つ身近な道具へ。そして、鮮やかな紺青色の釉薬を全面に纏った、よりいっそう、やきもの然とした造形へ。陶で表現することのへの手応えを新たにしながら、雄弁に見る者への問いかけを始めた作品は、今後、どのような造形へと展開していくのだろうか。楽しみである。
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