今村 輝久 展
IMAMURA Teruhisa


2015.1.12-1.24 (1.18 close)
ギャラリー白



戦後の関西現代美術の基盤をつくってくれた彫刻家


福岡道雄


 大阪市立美術研究所に通い始めた頃、講師は今村輝久。フェスティバルホールの壁面彫刻のアルバイトがあるから、君来ないかと誘われた。行動美術の会員ばかり八人、若いのが三人ほど。信楽の寒い二月。十代は僕だけで、そこで建畠覚造や向井良吉に会えた。
 今村輝久は彼らと東京美校(現芸大)の同期生である。池袋西武デパートで開催された、集団現代彫刻展に推薦してもらえて、日本の現代彫刻の主だった人達、堀内正和、山口勝弘、若林奮、荒川修作に会えたことは嬉しかった。何故か、大阪の平川正道と村岡三郎にも、この展覧会の陳列で東京で初めて会ったのだ。
 緑色の唐草模様の一反風呂敷を二枚で包み、セメント製の40センチ角の彫刻はまだ水分をたっぷり含んでいて50キロ強。多分徹夜で石膏を割ったのだろう、あちこちに石膏カスがついている。集団現代彫刻展に出品する今村さんの作品である。難波の港町駅から夜行列車の連結部に置いて、僕は時々様子を見にいく。夜になると、足元にも、通路にも、網棚にも皆、丸くなって寝ている。東京駅に着くと長いホームを赤帽が改札口まで運んでくれた。それからどうしたか記憶がない。その夜、上野の森にあった小さなラブホテルに泊まる。四畳半の畳の部屋に小さな姫鏡台と艶かしい布団がひいてあった。もう一つ布団をと、今村さんが言う。百円頂きますと従業員の女性。男同士ラブホテルに行ったのはこれが最初で最後。まだ、そういう時代であった。当時、何故か、デパートと新聞社が現代美術にちからを貸してくれていた。
 天王寺公園の中にある大阪市立美術研究所は半地下にあり、僕はそこで四年程好きな仕事をしていた。今村さんは週に二回講師として観にこられた。別にたいしたことは言われなかったが、ぴしっ、とか、ぴたっ、とか言う言葉をよくいわれたのを覚えている。今村さんの作品が正にぴしっ、しゃあ、すきっ、としている。そういう表現が好きな作家だった。そういう意味では僕と全く相反していたのに、彫刻の話になると熱くなられた。
 戦後しばらくは皆大変な時代で、特に、戦前の教育を受けた先輩たちは、何とか早く、ジャコメッティやヘンリー・ムーア、ザッキン、そしてブランクーシに追いつこうと懸命である。
 大阪上六の駅から歩いてすぐの所に漆喰が落ちた土蔵だけが幾つか残っていた。空襲で焼け残った建物だ。その一つに今村さんの住居とアトリエがある。今もある。先代は江戸時代から続く鋳物屋で釣鐘などをつくっていたとよく聞いた。だから、ブロンズに興味があるのかな?と思っていたが、あの粘っこい重々しさ気に入らなかったのか、アルミニウム作品が多い。宝塚駅前にある床置きのモニュメントは一番今村輝久らしい気張らない彫刻である。
 あまり誰も知らないのが、天王寺や上六界隈で二人でよく玉を突いていたことである。ビリヤードだ。僕はせっかちな玉を突くが、今村さんはよく考える。突くのかと思ったら、やめて、また考える。
 歳をとられてからも体型は少しも変わらず、静かで落ち着いた方だった。若い人達の面倒見、行動美術、創造美術、大阪彫刻家会議などおおくの世話をしてこられた。十年前、老衰で他界されたが、老衰とは一番格好いい。
 今村輝久は僕の先生でもある。しかし、先生とは一度も言ったことがなかった。何故だろう、と今でも思う。
 随分前に、高野山で今村さんの喜寿を祝う会があった。こんな遠くに三百人の大勢の方が来られていた。まさにお人柄である。最後になったが、今、活躍中の彫刻家、今村源の父親でもある。


(ふくおかみちお/彫刻家)



□ 略歴

1918

大阪市に生まれる

1942

東京美術学校(現・東京芸術大学)彫刻科卒業

1953

全関西美術展、大阪市立美術館、審査委員就任

1962-1971

ISPAAイスパア国際造形芸術協会を結成し出品

1966

夙川学院短期大学美術科教授に就任

1968

大阪彫刻家会議を結成

1986

大阪市南港緑道コンペ 白鳥のモニューメントの選考委員

1987

京都精華大学非常勤講師に就任

1988

大阪市中之島緑道彫刻コンペの選考委員

2004

老衰のため死去

 

個展

1970

今橋画廊

(大阪)

1973

第七画廊

(東京)

 

藤美画廊

(大阪)

1978

第七画廊

(東京)

 

信濃橋画エプロン

(大阪)

1979

朝日画廊

(東京)

1984

ギャラリー白

(大阪)

ギャラリー山口

(東京)

1988

ギャラリーなかむら

(京都)

1990

伊丹市美術館

(兵庫)

 

(1957年から1990年までに制作した62点を出品)

 

1992

ギャラリー白

(大阪)

 

枚方アートギャラリー

(大阪)

1996

ギャラリー白

(大阪)

2007

没後3年 今村輝久展

(豊中市立市民ギャラリー:大阪)

2015

ギャラリー白

(大阪)


グループ展・その他

1950-1972

行動美術展

1957

朝日新人展

(なんば高島屋・朝日新聞社主催:大阪)

1969

第1回花と彫刻展

(大阪市靭公園・大阪彫刻家会議主催)

1971

第2回現代国際彫刻展

(箱根彫刻の森美術館:静岡)

1972

第1回韓日現代彫刻展

(ソウル画廊・ソウル特別市:韓国)

1973

日韓現代彫刻展

(兵庫県立近代美術館:兵庫)

 

グリーンプラザ野外彫刻展

(大阪市・彫刻の森美術館共催:大阪)

1977

5人の作家 現代の立体展

(今橋画廊:大阪)

1979

イメージの現代 開館記念展

(大阪府立現代美術センター:大阪)

第七画廊展

(第七画廊:東京)

アートナウ'79

(兵庫県立近代美術館:兵庫)

第1回架空通信テント美術館展

(夙川公園:兵庫)

8人の作家 現代の造形展

(ギャラリー白:大阪)

1980

日韓現代彫刻展

(兵庫県立近代美術館:兵庫)

1973

小さな立体作品展

(ギャラリー白:大阪)

9人の作家 現代の造形展

(ギャラリー白:大阪)

1981

平面を這う立体作品展

(ギャラリー白:大阪)

アートナウ1970-1980展

(兵庫県立近代美術館:兵庫)

11人の作家 現代の造形展

(ギャラリー白:大阪)

第2回架空通信テント美術館展

(夙川公園:兵庫)

1982

今日の作家シリーズ 今村輝久展

 

(大阪府立現代美術センター:大阪)

7人の作家 現代の造形展

(ギャラリー白:大阪)

1983

Geとその仲間達展

(西田画廊:奈良)

8人の作家 現代の造形展

(ギャラリー白:大阪)

1984

彫刻7人展

(茶屋町画廊:大阪)

第4回テント美術館展の基金のための小品展

(ギャラリー白:大阪)

1985

6人のかたち展

(茶屋町画廊:大阪)

3人の作家 現代の造形展 今村輝久・建畠覚造・土谷武

 

(ギャラリー白:大阪)

1986

12人の造形展

(大学堂ギャラリー:大阪)

1987

いま現代美術は……展

(画廊ぶらんしゅ:大阪)

1989

7人のかたち展

(茶屋町画廊:大阪)

1991

彫刻展 今村輝久・清水九兵衛・建畠覚造・福嶋敬恭・森口宏一

 

(ギャラリー白:大阪)

1993

現代彫刻3人展

(市民ギャラリーとよなか(現・豊中市立市民ギャラリー):大阪)

1996

現代彫刻展

(市民ギャラリーとよなか(現・豊中市立市民ギャラリー):大阪)

1998

現代の方向展

(画廊ぶらんしゅ:大阪)

1999

UNO Y UNO展

(茶屋町画廊:大阪)

机の上と壁のミニ立体展

(茶屋町画廊:大阪)

2001

彫刻の表現と可能性

(市民ギャラリーとよなか(現・豊中市立市民ギャラリー):大阪)

2002

とよなかの作家たち展

(豊中市立ギャラリー:大阪)

2003

とよなかの作家たち展

(豊中市立ルシオーレホール:大阪)


受賞

1941

第1回直土会展、東京都美術館、奨励賞を受賞

1942

第2回直土会展、東京都美術館、奨励賞を受賞

1943

大阪市展、大阪市立美術館、朝日新聞社賞を受賞

1947

大阪市展、難波文化会館、市長賞三席を受賞

1948-1989

全関西美術展、大阪市立美術館、関展賞三席を受賞

1949

全関西美術展、大阪市立美術館、関展賞一席を受賞

1978

須磨離宮公園現代彫刻展、須磨離宮公園・兵庫県立近代美術館/兵庫、兵庫県立近代美術館賞を受賞

1989

大阪市市民表彰、文化功労賞を受賞


レリーフ・モニュメント

1967

大阪府立青少年会館、噴水彫刻及び壁面レリーフを制作

1973

大阪市天王寺公園にモニュメント [はばたけ平和の空へ] を制作

1975

大阪市買上げによる作品 [ANIMAL] を中之島公園内に設置

大阪市東淀川区かぶと公園にモニュメント、外壁レリーフ [太陽の下] を制作

1979

大阪市南港ポートタウン管理センター前に [明日への道標] を制作

1981

大阪府立青少年会館前に [明日に向かって] モニュメントを制作

1985

大阪府豊中市島江住宅団地にモニュメント [五色の風] を制作

1986

大阪府豊中市武道館前庭噴水にモニュメント [躍動] を制作

1988

大阪府スポーツ大賞のトロフィを制作

1993

阪急宝塚駅前広場/兵庫にモニュメント [明日へのコンセプト] を制作


講演・その他

1977

NHK教育テレビ、美の世界/彫刻の美の制作に出演

1989

ル・コルビュジェの彫刻についてを宝塚造形芸術大学(現・宝塚大学)で講演

1990

大阪彫刻家会議シンポジューム ”魅力ある都市空間の創造めざして” 大阪府立文化情報センターのパネラーとして参加