圓城寺 繁誉 展
ENJYOJI Shigetaka
<テキスト:小吹 隆文>


2015.9.21-9.26
ギャラリー白




 1968年生まれの圓城寺繁誉。彼が現代美術の洗礼を受けたのは、高校時代に兵庫県立近代美術館(当時)で見た「アート・ナウ」だった。個性の塊のような作品を見て「なんじゃこれは!」。それまでは漠然と「将来は建築の仕事に就こう」と思っていたが、絵が面白くて仕方なくなり、大阪教育大学を経て美術家の道へ転じたのである。
圓城寺の高校・大学時代は関西でニューペインティングが隆盛していた時期と重なっており、彼の絵画もおのずから抽象表現主義の系列に属するもとになった。すなわち、ダイナミックなストロークを集積させ、そのプロセスを通じて空間を作り上げるのだ。「描いているのが図なのか地なのか、普通はストロークが図だけど、それを消すことで残った部分が図でありながら地にも見える、その関係性を表したかった」。と本人は述べている。
また、圓城寺が早い時期に油絵具からアクリル絵具にスイッチしたことも時代性が感じられる。平成世代には信じられないだろうが、昔は画家がアクリル絵具を使うと邪道扱いされた。抵抗なくアクリル絵具が用いられるるようになったのは1980年代以降ではないか。その点でも彼の作品は時代の流行と密接に結びついている。
さて、このまま編年式に説明を続けるのもまどろっこしいので、圓城寺作品の画期について語ろう。まず2000年代初頭、グリッドの登場である。
グリッドと言っても画面を分割するための地模様ではない。それらは往々にしてストロークと共に現れ、塗りつぶす、上書きする、を何度も繰り返すのだ。「単純な色面プラス何かが欲しいと思った。模様ではなく形状として見えるもの。それでいて画面を邪魔せず、空間を作れるものとして」。本人はそのように述べている。
2000年代前半の作品の中には、グリッドの色面が図に見えるものがあり、日本画の箔の使用を連想させた。ある種の装飾性というか、日本の伝統的美意識が頭をもたげたかのようだ。圓城寺自身、自分の内面に日本美術と西洋美術の価値観が併存し、葛藤と共に融合を試みていたことを隠していない。
グリッドの使用は2007年に終わり、翌年からは再びストロークが画面を覆う作品へと回帰した。回帰といえば、2008年を機にアクリル絵具から油絵具に戻ったことも特筆すべきであろう。
2013年、圓城寺の作風はさらに大きく変化した。それまで横位置が主体だった作品は縦位置へと変化し、画面の線と面が明確に分離したのである。図と地の関係は相変わらず曖昧だが、これまでの作品とは様相が明らかに異なる。その背景にあるのは、美術界における具象絵画の復権である。彼にとっては予想外の事態だが、「観客が絵画を見つめる眼差しは確かに変化している。ならば流行におもねるのではなく、自分のスタイルを保持したまま具象ファンにも訴求できないか」。一昨年の作品は、彼のそんな思いから発していた。
2015年秋、圓城寺は2年ぶりの個展を行う。前回示した方向性が発展するのか、元に戻るのか、あるいは全く異なる展開か、本稿執筆時点では定かではない。しかし、四半世紀にわたり彼の作品に接してきた者として、新作が発するメッセージをしっかり受け止めたいと思う。


小吹隆文・美術ライター



□ 略歴

1968

兵庫県生まれ

1991

大阪教育大学小学校課程美術学科卒業

1994

大阪教育大学大学院美術教育専攻絵画彫塑専修修了

 

個展

1990

茶屋町画廊

(大阪)

1991

茶屋町画廊

(大阪)

1992

ギャラリー白

(大阪)

1993

ギャラリー白

(大阪)

1994

ギャラリー白

(大阪)

1995

ギャラリー白

(大阪)

1996

ギャラリー白

(大阪)

1997

ギャラリーAD&A-'97 ART PROGRESS

(大阪)

1998

ギャラリー白

(大阪)

1999

ギャラリー白

(大阪)

2000

ギャラリー白

(大阪)

2001

ギャラリー白

(大阪)

2002

シティギャラリー,ホワイトキューブ

(大阪)

 

ギャラリー白

(大阪)

2003

ギャラリー白

(大阪)

2004

ギャラリー白

(大阪)

2005

ギャラリー白

(大阪)

2006

ギャラリー白

(大阪)

2007

ギャラリー白

(大阪)

2008

ギャラリー白

(大阪)

2009

ギャラリー白

(大阪)

2010

ギャラリー白

(大阪)

2011

ギャラリー白

(大阪)

2012

ギャラリー白

(大阪)

2013

ギャラリー白

(大阪)

2015

ギャラリー白

(大阪)


グループ展

1989

第13回ローズガーデン美術展

(兵庫)

1990

第9回現代日本絵画

(山口)

 

第41回西宮市展

(兵庫)

 

第36回全関西展

(大阪)

 

'90兵庫県展

(兵庫)

 

第14回ローズガーデン美術展

(兵庫)

 

第2回遠山屋画廊公募展

(兵庫)

1991

芦屋市展

(兵庫)

 

大阪教育大学院生4人

(ギャラリーART BOX:兵庫)

 

Able Artisant's Expo 1991

 

(ライフステーションエイブル:大阪)

1992

大阪教育大学移転統合企画 REMOVE-OUT JUMP-EXTENTION

 

(市民ギャラリー豊中:大阪)

 

Able Artisant's Expo 1992

 

(ライフステーションエイブル:大阪)

1993

大阪教育大学院生4人 Vol.2

 

(ギャラリーART BOX:兵庫)

 

陶版線油

(茶屋町画廊:大阪)

 

描なる絵画展

(茶屋町画廊:大阪)

1994

美術の教育とベクトル展

 

(大阪教育大学図書館エントランスホール:大阪)

1998

ペインタリネス IV

(ギャラリー白:大阪)

2000

ニューアカ・絵画展

(ギャラリー白:大阪)

2001

ペインタリネス V

(ギャラリー白:大阪)

多元距離-考 現代美術の成立する場所 7人の挑戦

 

(シティギャラリー:大阪)

2004

ペインタリネス 2004

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

多元距離-考

(シティギャラリー:大阪)

2005

ペインタリネス

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

2010

ペインタリネス2010

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)