「個展に向けて」
●私が絵画で目指しているもの
現在の私の絵画は2011年の東北の大地震をへて大きく変化しました。
私は被災者ではありませんが、あの地震、原発事故によって日本の空気が一変したのと、日本人の気持ちが大きく変わったことを感じました。
私にとっては、「絵という表現はどうあるべきか」を問い直す大きなきっかけとなりました。
そして、あの地震以降、私は絵画で人に「希望」を起こさせるようなものを描こうと決心しました。
そのためには自分自身の大きな感動を見る人に伝える内容の吟味と、サイズ的にかなりの大きさが必要であると感じるようになりました。
なのでテーマの設定で熟考し、120号以上の大作を作り続けることとなりました。
また、見る人に「大きな感動」を呼び起こすような絵を描きたいと切に思っていますので、絵の内容と構図などに今までにないような斬新さが出るように工夫しています。
斬新さということでは、大げさな言い方ですが、最新の映画や日本のアニメなど高度に発達した映像技術の画像に見慣れた私たちの現代の視覚にさえも、新鮮な感覚をもたらすものを描きたいと思っています。
●今回の個展の出品作品について
DMの作品は、「家族の肖像」というタイトルです。
若いお母さんとその子供の、二人っきりの家族です。背景となっている街並みは、阪神間の丘陵にある街並みのいくつかを組み合わせて描いたものです。
この家族は、私の家族ではありません。私は美術系専門学校の講師として働いており、生徒や周りの人々の話から人間関係や家庭の貧困について直接耳にする機会があります。
日々、明るい話題もありますが、私は人々が持つ心の影、一人で抱えているより仕方のない悩み、社会の中で置き去りにされた部分に光りをあて、応援する気持ちで制作をしています。
現在、シングルマザーの総数は増加傾向にあると聞いています。その中で、貧困に苦しむ家族も少なくないということも、ニュースや新聞、人の話を聞くことで知りました。
この作品が見る人の心に勇気と共感を生むことができればと願いつつ、描きあげました。
今回、もう一つ、1970年の大阪万国博覧会の作品を描いています。
「EXPO`70/Remix」という作品です。私が、中学生の頃、すっかり夢中になってしまい十回ほど行きました。
その当時、幼い私にとって、万博は未来都市が出現したように感じたものです。
「未来への期待と希望」を表現した建築群と日本史上最大のお祭りであった大阪万博の盛り上がりを、現代を生きる若者にもぜひとも伝えたいと思いました。もちろん、私たち、万博を通過した世代には、ふたたびあの当時の活力を思い出すものになるのではという期待もこめています。
「人類の進歩と調和」とテーマされ、人々の賑わいと科学の進歩への期待、その跡地の万博公園が今や「太陽の塔」のみになってしまいました。
つまり、「人類の進歩」を唄った万博で最後に残ったのは、芸術作品であった。
このことが、わたしにとってとても重要な意味をもち、絵画という媒体を通じて、社会に訴えかけることの芸術的な意義を感じています。
●私が考える美術家の仕事
私は、作家という仕事を選択し、社会の一員として絵を描き続けています。
私の描く作品が、世の中の動静の中で、人々が良い方向に向かうことを願いながら一枚一枚、描きあげました。一人でも多くの人に見ていただければと思っています。
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