■ ペインタリネス2008
  −大城国夫・大杉剛司・田中美和


□展覧会テキスト−尾崎信一郎(鳥取県立博物館美術振興課長)
「絵画の責任」
関西の若手と中堅の画家によって構成された絵画展「ペインタリネス」
も今回で十回目を迎える。もっとも画廊によって企画され、出品作家が
自らの絵画に誠実であることを除いて共通点のない、世代的にも作風に
おいても多様な集団展にことさら周年的な意味を求める必要はないだろ
う。昨年とやや顔ぶれを変えながらも、着実な活動を続ける七名の作家
によって本年の展示も構成されている。
「ペインタリネス」は関西圏から高い水準にある抽象絵画が輩出されて
いることを十年の長きにわたって提示してきたという意味において恒例
の展示といえようが、一方できわめて異例の展覧会でもある。第一にこ
のような展覧会が今日ほかの美術館や画廊においても企画されることは
きわめてまれである。第二にこの展覧会からは今日隆盛する私的で具象
的なイメージが一貫して排除されてきた。このうち第一の点は予算や制
度の制約の名を借りた美術館や学芸員の怠慢と商業主義に走る画廊の経
営の問題であるからさしあたって私たちとは関係がない。ここでは二番
目の問題について論じる。
「ペインタリネス」に対比されるべき絵画を総括する展覧会が昨年、水
戸で開催されたことは記憶に新しい。展覧会そのものは実見していない
が、そこに出品され、「ポストモダン以降」を画するとされる多くの絵画
について私はこれまで国内外で何度も接してきた。「マイクロポップ」と
いう名を与えられた一連の作品 (必ずしも全てが絵画ではなく映像作品
も含む)に対して展覧会の企画者である松井みどりはドゥルーズ=ガタリ
やミシェル・ド・セルトーらを援用しながらその必然性を説く。奈良美
智やタカノ綾、青木陵子らの絵画を「後期ポストモダン」における典型
的な表現とみなす松井の主張それ自体は説得的である。私は松井のレク
チュアを聴講し、彼女と語る機会をもったが、安価な素材や見失われが
ちな細部、未熟さを来るべき美術の指針とみなす発想は刺激的で示唆に
富む。しかし問題とすべきはこれらの絵画が松井のポストモダン観の傍
証であり、それ以上でも以下でもない点である。松井の言説から切り離
してこれらの絵画に向かう時、その大半は私にとってまともに論じるに
値しない。私にとって「マイクロポップ」とは批評の問題であって絵画
の問題ではない。
松井は「マイクロポップ」の特徴としてドローイングへの志向を指摘す
る。ドローイングと「ペインタリネス」の対照は暗示的である。あえて
両者を対比する時、このうち線的で刹那的な前者が今日の絵画の主流を
かたちづくっていることは、今述べた展覧会や近年の国際展に赴けば瞭
然としている。松井も論じるとおりドローイングは逸脱や反理性と関わ
り、マイナーな立場、個人の物語を託すのに適している。これに対して
「ペインタリネス」が関わるのは独白でなく記憶、個人ではなく歴史、
端的に絵画史ではないか。むろんポストモダンを経由した私たちは、大
文字で書かれる歴史や物語がきわめていかがわしい概念であること、多
くの場合、弱者への抑圧装置として機能したことに意識的である。しか
しそれでもなお私は「ペインタリネス」の側にしか絵画の未来はありえ
ないと確信する。
「ペインタリネス」に出品された絵画は構築的、物質的、視覚的あるい
は身体的といった相互に矛盾しあったいくつもの特質を帯びている。そ
してこれらの主題は絵画にとって異例であるどころか、20世紀絵画の
主要な問題系を形成している。それぞれの作家の作品に詳しく立ち入る
余裕はないが、ここに出品された作品がいずれもこれらの問題に応答す
る試みであることは明らかであろう。逆にかかるきわめて正統な主題に
関わる絵画がむしろ例外的とみなされる事態に今日の絵画が直面する苦
境が暗示されているだろう。
先に私は「ペインタリネス」が個人ではなく歴史に関わると記した。現
下の絵画も絵画史における最新の局面にすぎず、時間の経過とともに絵
画史の中に組み込まれる。歴史を相対化しようとする試みが再び歴史化
されるという逆説、私たちが畢竟歴史から自由ではないという認識は苦
い感慨を伴う。しかしかかる認識に立って初めて私たちは歴史に対する
態度を決定することができる。それは画家にとっては自らの絵画をとお
して絵画史に対して責任を負うことである。「マイクロポップ」に欠落
しているのはこのような意識ではなかろうか。プライヴェイトなイメー
ジの開陳も絵画史への真摯な反応となりうる。しかし少なくとも彼らの
ドローイングは今のところそのような強度を有しておらず、彼らにとっ
て具象的なイメージの導入は絵画史との断絶のアリバイでしかないよう
に思われる。繰り返しになるが「絵画史」という大きな物語、とりわけ
西欧近代においてのみ可能な「近代絵画」という枠組の妥当性は問われ
てよい。しかしその連綿たる成果を否定すべき理由を私は見出すことが
できない。絵画史に対して責任を負うということは、歴史の中で絵画を
鍛えることであり、一つの筆触、一つのストロークの必然性を歴史の中
に尋ねることにほかならない。換言するならば今カンヴァスの上に置く
この筆触がマティスのタッチ、スティルの色面と深く切り結ぶという認
識に立つこと。かかる理解はポストモダンの到来とともに切り捨てられ
るべき反動的な主張ではなく、端的に画家が負うべき責任に関わってい
る。

□ 大城国夫


□ 略歴
1980 京都市立芸術大学美術学部日本画科卒業

個展
1984 画廊みやざき                   (大阪)
1988 ギャラリー白                   (大阪)
1989 ギャラリー白                   (大阪)
1990 ギャラリー白                   (大阪)
1991 ギャラリー白                   (大阪)
1992 ギャラリー白                   (大阪)
1993 ギャラリー白                   (大阪)
1994 ギャラリー白                   (大阪)
1995 ギャラリー白                   (大阪)
1996 ギャラリー白                   (大阪)
1997 ギャラリー白                   (大阪)
1998 ギャラリー白                   (大阪)
1999 ギャラリー白                   (大阪)
2000 ギャラリー白                   (大阪)
2001 ギャラリー白                   (大阪)
2004 ギャラリー白                   (大阪)
2005 ギャラリー白                   (大阪)
2006 番画廊                      (大阪)
   ギャラリー白3                  (大阪)
2007 ギャラリー白                   (大阪)

グループ展
1987 宮本和彦・大城国夫展        (ギャラリー白・大阪)
1989 宮本和彦・大城国夫展        (ギャラリー白・大阪)
1990 マティエールの異種交配       (ギャラリー白・大阪)
1997 ペインタリネス III         (ギャラリー白・大阪)
2001 第11回吉原治良賞美術コンクール展
               (大阪府立現代美術センター・大阪)
   ペインタリネス V         (ギャラリー白・大阪)
2002 アートスカラシップ2001      (exhibt LIVE・東京)
   第15回現代日本絵画展      (宇部市文化会館・山口)
   第7回風の芸術展−トリエンナーレまくらざき
               (枕崎市文化資料センター・鹿児島)
2003 比良から新しい風が…         (比良美術館・滋賀)
2004 ペインタリネス2004
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
2006 ペインタリネス2006
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
2007 ペインタリネス2007
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
   明日の美術を見つめて         (比良美術館・滋賀)
2008 現代美術−茨木ミニアチュール展(茨木市立ギャラリー・大阪)
   thing matter time 2008        (信濃橋画廊・大阪)
   ペインタリネス2008
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)

パブリックコレクション
日本ヒューレット・パッカード神戸事業所

□ 大杉剛司


□ 略歴
1963 東京都生まれ
1985 大阪教育大学美術科卒業

個展
1986 ギャラリー白                   (大阪)
1987 平松画廊                     (大阪)
1988 不二画廊                     (大阪)
1989 ギャラリー白                   (大阪)
1991 ギャラリー白                   (大阪)
1992 ギャラリー白                   (大阪)
1993 ギャラリー白                   (大阪)
1994 ギャラリー白                   (大阪)
1996 ギャラリー白                   (大阪)
1997 ギャラリー白                   (大阪)
1999 ギャラリー白                   (大阪)
2000 ギャラリー白                   (大阪)
2002 ギャラリー白                   (大阪)
2003 ギャラリー白                   (大阪)
2004 ギャラリー白                   (大阪)
2005 ギャラリー白                   (大阪)
2006 ギャラリー白                   (大阪)
2007 ギャラリー白                   (大阪)
2008 ギャラリー白                   (大阪)

グループ展
1985 羽里吉弘と2人展          (ギャラリー有・大阪)
1988 第9回国際インパクトアートフェスティバル’88
                     (京都市美術館・京都)
1990 Be−Art’90    (ギャラリーBe−Art・京都)
   空間が生まれるとき         (ギャラリー白・大阪)
1994 第20回日仏現代美術展(ロン−ポワン モンテーニュ・パリ)
                    (東京都美術館・東京他)
1995 絵画の方向’95    (大阪府立現代美術センター・大阪)
1997 ペインタリネス III         (ギャラリー白・大阪)
1998 伊丹市芸術家協会新人賞展   (伊丹市立中央公民館・兵庫)
   伊丹市展           (伊丹市立中央公民館・兵庫)
2000 ニュー・アカ絵画展         (ギャラリー白・大阪)
2001 ペインタリネス V         (ギャラリー白・大阪)
2002 比良から新しい風が…         (比良美術館・滋賀)
2003 絵画を見る2           (ギャラリー白3・大阪)
2004 ペインタリネス2004
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
2005 ペインタリネス   (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
2006 宝塚市展          (宝塚市立ソリオホール・兵庫)
2007 ペインタリネス2007
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
2008 thing matter time 2008        (信濃橋画廊・大阪)
2008 ペインタリネス2008
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)

受賞
1998 伊丹市芸術家協会新人賞展 新人賞
   伊丹市展 奨励賞

□ 田中美和


□ 略歴
1960 神戸市生まれ
1984 京都市立芸術大学美術学部油画科卒業

個展
1983 神戸現代美術ギャラリー              (神戸)
1985 シティギャラリー                 (神戸)
   ギャラリー白                   (大阪)
   ['87,'89〜'91,'93〜'95,'97〜'99,'01,'04,'06]
1989 石屋町ギャラリー                 (京都)
1993 ギャラリーVIEW                (大阪)
1994 ストリートギャラリー               (神戸)
   ['99]
1996 神戸大丸カーポートギャラリー           (神戸)
   ['97]
1998 ギャラリーラ・フェニーチェ            (大阪)
1999 市立ギャラリーいけだ               (大阪)
   ギャルリVEGA                 (大阪)
   ['01]
2000 ギャラリー芦屋                  (大阪)
2002 タウンギャラリーNOVANO           (神戸)
   ギャラリーむん                  (神戸)
2003 ギャラリー島田                  (神戸)
   ['05]
2004 現代中国芸術センター               (大阪)
2006 海岸通ギャラリーCASO(大阪)

グループ展
1983 New Art Scene in Kansai
              (京都市立芸術大学ギャラリー・京都)
                (大阪芸術大学ギャラリー・大阪)
   積極的なタプロー展    (神戸現代美術ギャラリー・神戸)
   New Art Scene in Kansai II
               (大阪府立現代美術センター・大阪)
1984 絵画の方法            (アートスペース・神戸)
   東京・神戸 ART EXHIBITION
       (新宿文化センター・東京/ギャラリーエンバ・神戸)
1985 積極的なタブロー展II         (信濃橋画廊5・大阪)
   CITY ESSENCE          (シティギャラリー・神戸)
   絵画−感覚と認識         (成安ギャラリー・京都)
   YES ART           (ギャラリー白・大阪)
   東京・神戸展       (神奈川県民ギャラリー・神奈川)
                  (兵庫県民ギャラリー・神戸)
   器のなかの瞬展             (天野画廊・大阪)
   WORKS ON PAPER '85   (大阪府立現代美術センター・大阪)
1986 伊藤カヨコ・佐藤智子・田中美和展  (ギャラリー白・大阪)
   トランスアートシーン       (ギャラリー16・京都)
   赤松玉女・田中美和展          (天野画廊・大阪)
   International Fair of Contemporary Art Bologna
                    (ボローニャ・イタリア)
   Quarter Art Bridge       (シティギャラリー・神戸)
   Art Bridge            (さんちかホール・神戸)
   ボローニャアートフェアー出品作品展 (ギャラリー白・大阪)
1987 アート・ナウ '87      (兵庫県立近代美術館・神戸)
   赤松玉女・田中美和展          (天野画廊・大阪)
   観・感・関展−日韓現代美術作家交流展
                    (さんちかホール・神戸)
                  (ギャラリーさんちか・神戸)
              (ギャラリーアベニューコウベ・神戸)
              (世田谷美術館区民ギャラリー・東京)
1988 赤松玉女・田中美和展          (天野画廊・大阪)
   絵画論的絵画−力としてのイメージ  (ギャラリー白・大阪)
   臨界芸術−’88年の位相        (村松画廊・東京)
   観・感・関展           (さんちかホール・神戸)
1989 つかしんアニュアル 浮遊体−イマージュ空間
                    (つかしんホール・尼崎)
   シティギャラリー10周年記念展 (シティギャラリー・神戸)
1991 第12回汎瀬戸内現代美術展(岡山県総合文化センター・岡山)
1992 兵庫の美術家         (兵庫県立近代美術館・神戸)
1993 ウイメンズ’93          (近鉄アート館・大阪)
   第13回汎瀬戸内現代美術館(岡山県総合文化センター・岡山)
1994 ウイメンズ’93東京展     (ギャラリーエモリ・東京)
   画廊の視点       (大阪府立現代美術センター・大阪)
1995 ペインタリネス           (ギャラリー白・大阪)
1996 現在絵画−3つの表情       (四条ギャラリー・京都)
1997 WE ARE HERE AGAIN   (新宿パークタワーギャラリー・東京)
2000 VOCA展2000        (上野の森美術館・東京)
   誘発の相貌             (Oギャラリー・東京)
2001 ペインタリネス V         (ギャラリー白・大阪)
2002 BLUE                  (里夢・神戸)
2003 Diary−冬の小品展   (ギャラリーラ・フェニーチェ・大阪)
2004 絵画を見る2004/3      (ギャラリー白3・大阪)
   イデア−現代ロマン派絵画I
              (ギャラリードゥサンパル5F・神戸)
2005 ペインタリネス   (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
2007 CAP art fair 2007       (CAP HOUSE・神戸)
   対話2007           (ギャラリー島田・神戸)
   ペインタリネス2007
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)
2008 thing matter time 2008        (信濃橋画廊・大阪)
   ペインタリネス2008
             (ギャラリー白,ギャラリー白3・大阪)