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■ いきづく空間−モノタイプ−大舩光洋・近松素子・長谷川睦 |
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□展覧会テキスト−奥村泰彦(和歌山県立近代美術館学芸員)
「モノ/タイプ−予め回避された逆説について」
「いきづく空間」は、ギャラリーによって選ばれた三人の作家による展
覧会として、2004年から年に一度開催されてきた。この三人は、そ
の作品制作に版画の技法を用いている以外に、さほどの共通点を持つわ
けではない。その技法においても、大舩光洋がシルクスクリーンを用い
るのに対して、近松素子と長谷川睦が銅版を用いている。単に技法が異
なるにとどまらず、三人の作風はそれぞれに異なっており、いわば年に
一度のジャム・セッションといった趣を持つ展覧会といえよう。
大舩光洋はシルクスクリーンによって製版した形象を刷るだけでなく、
刷られる紙の下に凹凸(といっても紙一重程度の薄いものらしいが)を
つけることで刷りの際にかかる圧力を変化させ、そこに生まれる濃淡の
グラデーションを造形の大きな要素としている。刷った際にインクの量
にムラができるのは普通は失敗とされることだが、あえてそのような状
態を作り出して、通常の刷り方では作ることのできない微妙なマチエー
ルを生み出すのである。
近松素子は、ところどころに小さく切り抜いた銅版による形象を配した
画面を構成している。雲や星、あるいは池の水面を思わせる個々の要素
が配された画面は、小型の水棲動物の視点から見た水中の景色のようで
もある。切り抜かれた銅版の作り出すはっきりしたエンボスは作品に遠
近感を生みだし、紙の物質性を強調すると共にその平面性を確認させ、
風景を思わせる画面が、一方で抽象的な平面であることも意識させる効
果を生んでいる。
長谷川睦もまた、切り抜かれた銅版による造形を試みている。だがその
切り抜き方は、ある形を切り出すというのではなく、ある版が面として
存在することをより明確に意識させることを目的としているようだ。手
で切り抜かれたことが容易に見て取れる版の端は、画面においては色面
の輪郭を形作っているが、しばしばあえて滑らかに形成されず、切られ
たままの荒々しさを提示している。そういった面が重ねあわされた画面
は、限定された版という面がその限定ゆえに存在を主張しあう場となっ
ている。
もちろんセッションが成り立つためには、単に三者三様であるだけでな
く、そこに調和を生み出す要素が共有されているはずである。ここ数年
この展覧会に与えられてきたサブタイトル−「無色の色」、「図と地」
は、作家たちへのテーマの投げ掛けであると同時に、この三名の共通項
を探り出す試みだったと言えるだろう。そして、今回のテーマは「モノ
タイプ」である。これまでのサブタイトルが造形面での思考を要請する
ものだったとするならば、「モノタイプ」という問題設定は、方法論を
通して制作を検討するものだろう。
図式的になるが、版画、という作品のありようを規定するのは、まず版
を転写するという技術だとしよう。その技術は、複製を目的として生み
出され、精度を高められてきたものである。知の共有化のために情報を
複製して流布させることは、人類の基本的な欲求、あるいは業とも思え
るほど、さまざまな障害を克服して進められてきた。複製技術にとって
の理想は、同一の内容物をできる限り大量に作り出すことだ。作品の経
済的な価値という観点からは希少性という対立概念があるものの、複製
技術の結果である版画にとって、大量に刷られることもまた一つの要請
であろう。
それゆえに、一点しか制作されない「モノタイプ」は、版画の理念を逸
脱するものだという主張も成り立つ。確かに版画の技術は複製を生み出
すためのものであったが、それはまたその技術によらなければ生み出す
ことのできない、独自のイメージを生産する手段として自立しうる技術
でもある。この三人にとって彼らが用いる技法は、複数の作品を得るこ
とではなく、画面を成立させる条件 として選ば
れているのである。文
頭に作家たちが「作品制作に版画の技法を用いている」などと回りくど
い表現を用いたのはそのためである。
同一のイメージを複製するためには、偶然に生じる造形的要素を極力排
することが必要である。逆に言えば唯一無二のイメージを生み出すこと
は、生み出されたイメージを偶然のものとして認め、その反復を可能性
にとどめておくことである。いわば必然的に生み出された形象の中に偶
然を見出す手段として、版画の技術が用いられているのだと言えよう。
それが、作品の空間をいきづかせる一つの方途なのだ。 |
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□ 大舩光洋 |
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□ コメント
展覧会テーマはモノタイプ
今回スクリーンプリントによるモノタイプを試みた
製版された面の一部分を小さなスキージーで絵を描く様にインクを紙に
定着させる
意図しながらも偶然におこるインクの擦れなどを自分のイメージに当て
はめながら瞬時に判断し作品となる
その版の上に残された瞬間の痕跡を新たな紙に刷り落とす
少しずつ曖昧になって行く記憶の様に、その紙の上には色褪せてはいる
が、確かな何かが存在する
また新しいものに出会えた |
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□ 略歴
1966 大阪府生まれ
1987 浪速短期大学デザイン美術科卒業
1988 大阪芸術大学付属大阪美術専門学校研究科修了
1990 大阪芸術大学芸術学部美術学科卒業
個展
1992 信濃橋画廊 (大阪)
1993 コーヒーカンタータ (大阪)
1994 番画廊 (大阪)
1995 Andersen (奈良)
コーヒーカンタータ (大阪)
1996 Andersen (奈良)
1997 現代作家・個展シリーズ9 (市立枚方市民ギャラリー・大阪)
ギャラリークオーレ (大阪)
1998 Andersen (奈良)
1999 コーヒーカンタータ (大阪)
2000 Andersen (奈良)
茶屋町画廊II (大阪)
2001 ギャラリー風蘭 (静岡)
2003 ギャラリー白 (大阪)
2005 ギャラリー風蘭 (静岡)
2006 ギャラリーnico+ (大阪)
グループ展
1988 2人展 (ガレリアノイ・大阪)
1989 PRINT MAKING I (GALLERY
TAKA・京都)
1990 LONG HOT SUMMER IV (ギャラリークオーレ・大阪)
1992 現代版画コンクール展 (大阪府立現代美術センター・大阪)
1994 現代版画コンクール展 (大阪府立現代美術センター・大阪)
枚方の美術家−Artists In Hirakata
(市立枚方市民ギャラリー・大阪)
1995 枚方・釜山版画交流展 (枚方市民ふれあいホール・大阪)
枚方の美術家−Artists In Hirakata
(市立枚方市民ギャラリー・大阪)
1996 枚方の美術家−Artists In Hirakata
(市立枚方市民ギャラリー・大阪)
1997 第3回ASROPA展 (耕仁美術館・ソウル)
現代アートの方法−ひらかたの若き美術家たち展
(枚方市御殿山美術センター・大阪)
枚方の美術家−Artists In Hirakata
(市立枚方市民ギャラリー・大阪)
1998 現代版画コンクール展 (大阪府立現代美術センター・大阪)
Resonant Box (神戸アートビレッジセンター・神戸)
枚方の美術家−Artists In Hirakata
(市立枚方市民ギャラリー・大阪)
1999 枚方の美術家−Artists In Hirakata
(市立枚方市民ギャラリー・大阪)
2000 枚方の美術家−Artists In Hirakata
(市立枚方市民ギャラリー・大阪)
2002 同時代の作家達 (ギャラリー千・大阪)
2004 F・F・A 現代美術展 (大阪府立現代美術センター・大阪)
いきづく空間 (ギャラリー白3・大阪)
2005 枚方の美術家ミニアチュール展
(くずはアートギャラリー・大阪)
いきづく空間 (ギャラリー白3・大阪)
2006 いきづく空間−無色の色 (ギャラリー白3・大阪)
2007 版画DE扇子 (番画廊・大阪)
第1回NBCシルクスクリーン版画ビエンナーレ
(美術家連盟画廊・東京)
いきづく空間−図と地 (ギャラリー白3・大阪)
2008 第54回全関西美術展 (大阪市立美術館・大阪)
はんが其れ其れ (ギャラリー松井・大阪)
いきづく空間−モノタイプ (ギャラリー白3・大阪) |
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□ 近松素子 |
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□ コメント
イメージはいつもふわりと浮かび、またふわりとおぼろげになる。
消えてしまわぬ間に、版に向かう。
プレス機を通し、また私はイメージと出会う。それがまた次のイメージ
へと広がり、無限の世界へと私を運ぶ。
発見とその再会は、版画という間接的な技法によってもたらされると思
っている。
この発見・出会いは私にとっては奇跡であり、同じ奇跡は二度と起こら
ない。 |
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□ 略歴
1965 神戸市生まれ
1986 嵯峨美術短期大学ビジュアルデザイン科卒業
1988 京都インターナショナル美術専門学校(現インターアクト美術学
校)絵画・版画コース卒業
個展
1990 ギャラリー白 (大阪)
1993 ギャラリーVIEW (大阪)
1994 ギャラリーVIEW (大阪)
1995 オンギャラリー (大阪)
1998 コンポステラ (神戸)
コーヒーカンタータ (大阪)
1999 ギャラリー白 (大阪)
2000 ギャラリーミュゼアンジュ (兵庫)
ギャラリー白 (大阪)
2001 Za Gallery (京都)
2002 ギャラリー雛 (兵庫)
2002 グストハウス (神戸)
2003 MAISON D’ART (大阪)
2004 ギャラリー白3 (大阪)
2005 石田大成社ホールICB (京都)
ギャラリーびー玉 (大阪)
2006 大丸京都店アートスポット (京都)
2007 ギャラリー白3 (大阪)
2008 Oギャラリー (東京)
大丸京都店アートスポット (京都)
グループ展
1987 3人展 (梁画廊・京都)
1993 アトリエ凹凸展
(グランドギャラリー・大阪/西宮市民ギャラリー・兵庫他)
[以後毎年]
1993 Box Makers Show (ギャラリーVIEW・大阪)
1993 アートカレンダー展 (ギャラリーVIEW・大阪)
['94]
1994 銅版画&陶芸−2人展 (ギャラリー翔・神戸)
NEW FACE (ギャラリーVIEW・大阪)
1996 野外展覧会−GARDEN (大阪城公園・大阪)
ドローイング&銅版画−2人展 (游家屋・大阪)
1997 野外展覧会−GARDEN (靭公園・大阪)
1998 ペインティング・銅版画・陶器−3人展
(ギルドギャラリー・大阪)
1999 Artist Book Show (グストハウス・神戸)
(KALA
Institute・アメリカ)
第17回伊丹大賞展 (伊丹市立美術ギャラリー・兵庫)
2000 第50回西宮市展
2001 4つの銅版画 (ギャラリー白・大阪)
ラ・フルール (ギャラリーミュゼアンジュ・兵庫)
2002 和み展 (Za Gallery・京都)
ケ・セラセラ (ギャラリーミュゼアンジュ・兵庫)
銅版画6人展 (ギャラリー雛・兵庫)
2003 陶と銅版画の2人展 (B-PLACE Sumiyoshikan
Gallery・神戸)
2004 いきづく空間 (ギャラリー白3・大阪)
2005 アトリエ凹凸−1975〜2005 (西宮市立市民ギャラリー・西宮)
いきづく空間 (ギャラリー白3・大阪)
2006 いきづく空間−無色の色 (ギャラリー白3・大阪)
2007 いきづく空間−図と地 (ギャラリー白3・大阪)
あおもり国際版画トリエンナーレ
(国際芸術センター青森・青森)
2008 日仏交流版画展 (Cite Internationale
des Art・フランス)
いきづく空間−モノタイプ (ギャラリー白3・大阪)
受賞
2007 あおもり国際版画トリエンナーレ 審査員奨励賞 |
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□ 長谷川睦 |
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□ コメント
金切りハサミやカッターでカットしたり、ドライポイントをした銅板を
何回もプレスすることで表現しています。
また版は絵の具を詰める場合とローラーで絵の具をのせる場合がありま
す。つまり同じ版でも、凹版である場合と凸版である場合があります。
同じ版を何度も使い回しています。
モノタイプなので、版の形状にとらわれることなく、自由に何十回も刷
り重ねていきます。そのため思わぬ色や状態(効果)が現れ、作品が徐
々に仕上がって行きます。
偶然性から来る深く不思議な「空気の層」を表現できればと思います。 |
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□ 略歴
1961 大阪府生まれ
1987 京都市立芸術大学大学院版画専攻修了
個展
1986 ギャラリーマロニエ (京都)
1988 ギャラリー白 (大阪)
1990 ギャラリー白 (大阪)
1991 ギャラリー白 (大阪)
1993 ギャラリー白 (大阪)
1995 ギャラリー白 (大阪)
1996 ギャラリー白 (大阪)
GALLERY YOU (京都)
1998 ギャラリー白 (大阪)
2000 ギャラリー白 (大阪)
2001 ギャラリー白 (大阪)
2003 Oギャラリーeyes (大阪)
石田大成社ホール (京都)
2004 ギャラリー白 (大阪)
2006 ギャラリー白 (大阪)
2007 ギャラリー白 (大阪)
グループ展
1984 京都美術展 (京都府ギャラリー・京都)
京展 (京都市美術館・京都)
現代版画コンクール展 (大阪府立現代美術センター・大阪)
1985 京展 (京都市美術館・京都)
全国大学版画展 (丸ノ内画廊・東京)
1986 京展 (京都市美術館・京都)
現代版画コンクール展 (大阪府立現代美術センター・大阪)
全国大学版画展 (丸ノ内画廊・東京)
1988 現代版画コンクール展 (大阪府立現代美術センター・大阪)
1990 現代版画コンクール展 (大阪府立現代美術センター・大阪)
1992 現代版画コンクール展 (大阪府立現代美術センター・大阪)
Perspectives from Japan−Nine Printmakers
(エクステンションギャラリー・カナダ)
1994 現代版画コンクール展 (大阪府立現代美術センター・大阪)
1995 京阪沿線より発信−現代美術10人展
(京阪ギャラリー・オブ・アーツ・アンド・サイエンス・大阪)
1996 現代版画コンクール展 (大阪府立現代美術センター・大阪)
1997 京阪沿線より発信−現代美術10人展
(京阪ギャラリー・オブ・アーツ・アンド・サイエンス・大阪)
1998 現代版画コンクール展 (大阪府立現代美術センター・大阪)
Hanga−New Directions in Japanese Printmaking
(グラフィック・スタジオ・ギャラリー・アイルランド)
1999 京阪沿線より発信−現代美術10人展
(京阪ギャラリー・オブ・アーツ・アンド・サイエンス・大阪)
2001 4つの銅版画 (ギャラリー白・大阪)
2002 Hanga−Further Directions/Contemporary
Japanese Prints
(グラフィック・スタジオ・ギャラリー・アイルランド)
2004 いきづく空間 (ギャラリー白3・大阪)
2005 いきづく空間 (ギャラリー白3・大阪)
2006 いきづく空間−無色の色 (ギャラリー白3・大阪)
2007 いきづく空間−図と地 (ギャラリー白3・大阪)
2008 いきづく空間−モノタイプ (ギャラリー白3・大阪)
受賞
1986 全国大学版画展 買上賞
パブリックコレクション
大阪府立現代美術センター
華頂短期大学 |
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