陶芸の提案 2011
Ceramic Proposition

一色智登世・奥野信生・谷内薫・山本朱


2011.2.14-2.26 ギャラリー白3



「使い手」の遺物

中谷 至宏


 誰も残そうとは思っていなかったにも関わらず残されたもの。遺構の発掘で最も多く見出されるのは茶碗や壺、瓦などの陶磁器である。焼き物は、容易に割れる弱さを持ちながらも、土中に長らく眠っていても姿を変えることなく残り得る、比類なき堅牢さを備えている。一方、時代を超えて伝世し、未来に向けて残すべき最重要な対象として、「国宝」という名で指定されている事物を見ると、「美術工芸品」として国宝に指定されている866件中、「工芸品」に分類される陶磁器はわずか14件。しかもその内日本で制作されたとみなせるものは5件に過ぎない。「絵画」158件、「彫刻」126件と比べるとその少なさは際立つだろう。だが「美術工芸品」の中でも「考古資料」として指定されている44件中では、土偶など最も古い縄文時代の遺物4件は全て陶器である。最も古い時代に制作された国宝は陶器でありつつ、総数では、染織品の7件に次いで少ないのが陶磁器であるということ。陶磁器が、残すべき対象として向けられる意志の脆弱さと、残る事物としての堅牢さを兼ね持つ存在であることをまず確認しておく必要があるだろう。
 無論、「文化財」という概念自体、極めて近代的なものであり、その枠内での陶磁器の位置を敢えて確認せずとも、西欧的な「美術」概念の到来以降の制度史における「工芸」の苦闘は今更言い立てるまでもない。筆者は今回の出品者の方々に、敢えて近代から現在に至るまで、「陶芸」がメジャーなジャンルとはみなされてこなかった事実に対しての自らの考えを答えてもらった。結果は程度の差はあるものの、それを制作に向けての弱みと感じることはなく、一様に制度との葛藤が制作の契機には関与していないと解せる返答であった。制度の形成と強化とに不可避な関係にあるべき「美術館」という仕組みと、筆者を含む批評的言説の脆弱さは、作り手の視野からフェイドアウトし、「使い手」の眼と手へと直接的に向かっていることを改めて感じた。その意味では、彼ら彼女らの仕事を「陶芸」と分類し取りまとめることが意味をなすのであろうか。
 「国宝」の陶磁器を持ち出したのは、それらが近代の制度の中で稀少であることの確認とともに、そのほとんどが近代的な「美術」の評価体系の埒外で伝え愛でられてきたことを思い起こそうとするためでもある。作り手の手の運びを今なお辿ることを可能にする古代の土器や、茶道という体系の中での価値形成の過程で見出され珍重された「道具」が、結果として「美術工芸品」という分類内に位置を占めているのである。視ることに留まらず、「使い手」の所作をも伴った眼と手の経験を包含した愛で方の対象として、陶磁器は特異な評価体系を持つ強みを蔵している。それは茶道に限定せずとも、固有な文化に根ざした物への構えとして見做し得るに違いない。
 思えば、今回の出品作家の作品を眺めると、生き物の形象をモデリングしようとする原初的な造形意思が土偶を思わせるものや、霊的なものを呼び寄せる「依り代」としての埴輪を想起させるもの、曲面から構成される壺の器体に植物を巧みに寄り添わせる仁清の装飾性に系譜づけ得るものなどを見出せるように思われる。もちろんそれらは意図した引用ではなく、土の造形が持つ可塑性の原初的な快感に素直になること。飾ることへの衒いのない欲求が導いた文化の祖形への接触でもあるだろう。
 筆者はもう一つの質問として陶芸に必然的な「火を介すること」、「窯に委ねること」など、手だけで直接的に制作を貫徹しえない制約に対する感じ方を各自に問うた。窯が偶然性に委ねる装置ではなくなっている現在では、手順の中での偶然性が占める割合は極めて小さくなっている事実を再認識させてもらったが、過程を見通すまでのプロセスが不可避であることをはじめとして、少なくとも過程を制約として認識することは共通していた。しかしそれを制作の中で楽しみと捉えるか否か、それを課題視するか否かは、答えが分かれるところであった。だが押し並べて結果としての作品に「土に語らせる」あるいは「予期せぬ偶然の妙」を前景化することは望まないことはもちろんのこと、絵画における筆や絵の具の選択と制御とは別種の、非連続で不可視な過程を避け得ないこの技法の特性を、作品の本質に据えようとはしないことは共通していた。  陶芸でなければ表現できないものを模索しながら、陶芸に語らせることをしない制作。残されること=「美術」なるものに憧れることなく「使い手」に向けて表現し続けること。それこそ現代において陶芸ゆえの提案となり得る指向性かもしれない。残されたものがその文化の現在を映し残すことを忘れない限り、未来における堅牢な遺物をもたらすことができるに違いない。


なかたに よしひろ(元離宮二条城事務所 担当係長 学芸員)




□ 一色智登世


イメージの具体化

目には見えない音に色を感じる
虹をみて甘酸っぱく感じる
フワッと嗅いだ匂いで頭に音が響く

五感の記憶
記憶の断片、
ある日の発見、
日々の出来事

イメージは展開し連想的に発展する。
具体化されたイメージと見る人の記憶の中の何かとつながり共感や触発を生むことができればと思っている。



□ 略歴

1982

大阪府に生まれる

2005

大阪芸術大学芸術学部工芸学科陶芸コース卒業

2007

大阪芸術大学大学院博士前期芸術制作修了

 

個展

2005

INAXガレリアセラミカ

(東京)

2009

ギャラリー白3

(大阪)


グループ展

2004

CERAMIC DECORATIONS

(インテックス大阪:大阪)

2005

大阪芸術大学卒業制作学外選抜展

(マイドーム大阪:大阪)

2006

くらしの工芸展

(近鉄百貨店あべの店:大阪)

 

ガレリアセラミカの11人展

(世界のタイル博物館:愛知)

 

SPICY LIFE!!!

(ギャラリー百音:愛知)

 

伊丹国際クラフト展

(伊丹市立工芸センター:兵庫 

 

 

/世田谷文化生活情報ンター生活工房:東京)

 

CLAYxPLAY

(ガナアートスペース:韓国)

2007

大阪芸術大学大学院修了制作学外展

 

(サントリーミュージアム:大阪)

器・小さなオブジェ・道具展

(INAXガレリアセラミカ:東京)

2009

アジア現代陶芸 新世代の交感展

(愛知県陶磁資料館:愛知)

2010

陶芸の提案2010

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

NATURARS,NOT BY NATURE

 

(ギャラリーエスプリヌーボー:岡山)

2011

陶芸の提案2011

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)




□ 奥野信生


 果実や種子などは、大地に落ち、やがて芽が出て花が咲き、また実を結ぶ。丸みのある様々な形たちには、一生のエネルギーなるものを内側に内包したように感じる。そんなところに惹かれ、それらを自分なりにデフォルメした作品を制作しています。
 最近では、やわらかな質感と金属のような固く冷たさのある質感を使用し、それらが調和のとれるような作品制作を試みています。



□ 略歴

1982

大阪府に生まれる

2005

大阪産業大学工学部環境デザイン学科卒業

2007

大阪産業大学大学院工学研究科環境デザイン専攻修了

 

個展

2006

Duce mixギャラリー

(京都)

2007

ギャラリー白3

(大阪)

2008

ギャラリー白

(大阪)

2009

ギャラリー白3

(大阪)

2010

ギャラリー白3

(大阪)


グループ展

2005

土にできる14のこと

(ギャラリー白:大阪)

2006

二人の器とかえる

(Duce mixギャラリー:京都)

 

大阪産業大学環境デザイン学科堤研究室クレイワーク展

(ギャラリー白:大阪)

2007

大阪産業大学クレイワーク土の発(8)展

(ギャラリー白:大阪)

 

第4回京畿道世界陶磁ビエンナーレ

(韓国)

2008

大阪工芸展

(大阪)

 

干支に入れなかった動物たち展

(京阪百貨店守口店アートサロン:大阪)

 

試みの茶事 茶道具展
ETO-TEN

(ギャラリー陶林春窯:岐阜)
(京阪百貨店守口店アートサロン:大阪)

2009

陶芸の提案2009

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

二人展

(TONG-IN GALLERY:韓国)

 

ETO-TEN

(京阪百貨店守口店アートサロン:大阪)

2010

陶芸の提案2010

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

 

ETO-TEN

(京阪百貨店守口店アートサロン:大阪)

2011

陶芸の提案2011

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)




□ 谷内薫


−人は人によって成り、人は人のなかで生ずる−

いつの世も、ヒトとヒトの間に在り続ける結びつき。関係。
めぐりあわせ、回りあわせる‘ご縁’の数々。
目に見えなくとも確かに存在し、カタチなくとも感じとれる気配。

カタチなき形を表現する自身の『提案』が、それらと向き合うきっかけ作り・自らを知るてがかりになればと思う。



□ 略歴

1983

奈良県に生まれる

2006

京都精華大学
芸術学部デザイン学科テキスタイルデザインコース卒業

2007

奈良、京都で陶芸を学ぶ

2008

滋賀県立陶芸の森 スタジオアーティスト

 

個展

2008

谷内薫展

(ギャラリーマロニエ:京都)

2009

谷内薫展

(ギャラリー白:大阪)

谷内薫 作品展

(arton art gallery:京都)

2010

谷内薫 作品展 II

(arton art gallery:京都)

谷内薫展

(ギャラリー恵風:京都)


グループ展

2008

まちなかアートin信楽2008

(ギャラリー蓮月:滋賀)

現代美術小品展

(ギャラリーすずき:京都)

2009

第20回日本陶芸展

(大丸ミュージアム:東京/大丸ミュージアム:大阪 
/茨城県陶芸美術館:茨城)

第27回朝日現代クラフト展

(阪急百貨店うめだ本店:大阪/横浜都筑阪急:神奈川)

第29回長三賞現代陶芸展

(常滑市民俗資料館/常滑市立陶芸研究所:愛知)

New Friends,Art and Adventure : A Ceramic Art Exhibition

(オーストラリア国際交流基金ギャラリー:シドニー)

NAPプレ展覧会

(海岸通ギャラリーCASO:大阪)

星に願いを

(neutron tokyo:東京)

現代美術小品展

(ギャラリーすずき:京都)

第49回日本クラフト展

(丸ビルホール:東京)

2010

陶芸の提案2010

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

それぞれの風景展

(アートスペースかおる:兵庫)

アートフェア京都

(ホテルモントレ京都:京都)

第18回国際丹南アートフェスティバル2010

(越前市民ホール:福井/まいづる智恵蔵:京都)

NATURARS,NOT BY NATURE

 

(ギャラリーエスプリヌーボー:岡山)

NAPグループ展「ザ・great盆地フロンティア」

 

(カイナラタクシー綿町ビル:奈良)

現代美術小品展

(ギャラリーすずき:京都)

2011

陶芸の提案2011

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)




□ 山本朱


毎日ウサギを見ていると、いろいろな習性が目につきます。

それが厳しい自然界の中なら、かよわいウサギが生き抜くための悲しい性ですが、安全な家の中となると、とたんに滑稽な行動に見えます。

そんなウサギの様子がふと自分に重なったり、どこかで見ただれかの行動と重なったりしたときになんだかくすぐったい気分になります。

そんなことを思いながらつくっています。



□ 略歴

1982

大阪府に生まれる

2002

大阪芸術大学短期大学部デザイン美術学科陶芸コース卒業

2004

京都精華大学芸術学部造形学科陶芸専攻卒業

 

個展

2004

ギャラリー白

(大阪)

2007

ギャラリー白

(大阪)

2010

Little Birds

(大阪)


グループ展

2003

3回生展

(ギャラリーマロニエ:京都)

○○はじめました展

(クラフトギャラリー集:京都)

2004

卒業制作展

(京都市立美術館:京都)

2005

長三賞現代陶芸展

(愛知県美術館ギャラリー/常滑市体育館:愛知)

 

Good Times Roll vol.2

(Rain Dogs:大阪)

ETO-TEN

(京阪百貨店守口店美術画廊:大阪)

2006

Thing matter time

(信濃橋画廊:大阪)

うつわ展

(京阪百貨店守口店美術画廊:大阪)

ETO-TEN

(京阪百貨店守口店美術画廊:大阪)

2007

箱舟展

(Shin-bi:京都)

うつわ展

(京阪百貨店守口店美術画廊:大阪)

ETO-TEN

(京阪百貨店守口店美術画廊:大阪)

2008

陶のかたち展

(ギャラリー北野坂:兵庫)

うつわ展

(京阪百貨店守口店美術画廊:大阪)

ETO-TEN

(京阪百貨店守口店美術画廊:大阪)

2009

陶芸の提案2009

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

掌サイズのオモチャたち展

(番画廊:大阪)

うつわ展

(京阪百貨店守口店美術画廊:大阪)

ETO-TEN

(京阪百貨店守口店美術画廊:大阪)

2010

陶芸の提案2010

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

ETO-TEN

(京阪百貨店守口店美術画廊:大阪)

2011

陶芸の提案2011

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)