豊田 直巳 写真展
「フクシマ元年〜原発震災を生きる〜」


2013.3.18-3.23
ギャラリー白3



フクシマ元年 原発震災を生きる


「あの日」から二年がたちます。この二年を「もう二年も」という声で迎える人々と、「まだ二年しか」と黙り込む福島の人々とに、日本に暮らす私たちが二分化されていくような日々が続いています。
 「あの日」とは、大地震と大津波に襲われ、あるいは襲われつつある町々、村々をテレビで「観た」あの日。2011年3月11日です。同時に、テレビに映らない東京電力福島第一原発で、炉心溶融=メルトダウンが進行していた3月11日。世界史に刻印された日です。
 「あの日から世界はまったく変わってしまった」と、人々は嘆き、我が身を振り返り、そして安全神話の正体を垣間見、「二度と騙されないぞ」と心に誓ったはずでした。
しかし、「もう二年も」経てば、「私の」生活でいっぱいで、「わたしたちの」将来に目を向ける余裕もなく、そして、それにつけ込む原発を推進してきた者たちの、その同じ口が発する「復興、復興」の掛け声を鵜呑みにするような無関心がはびこり始めています。
 ところが、です。「まだ二年しか」たっていない被災した人々には、その無関心は許されていないのです。たとえば、子どもを持つ親は、いつ発症するとも限らない甲状腺ガンなど、我が子の現在と将来にわたる健康不安を抱え、しかも被ばくさせてしまったのではないかと自分を責めつづけています。たとえば、半減期の「短い」のセシウム137で30年。プルトニウムは、2万4千年でやっと放射能が半分。いつまで待ったらいいのでしょう。
 その途方もない時間感覚を身につけさせられ、いまも避難生活を余儀なくさせられている原発震災を生きる人々。「帰りたい。でも、帰れない」とつぶやき、「俺は帰りたいよ。でも、子どもも孫もだめだ。帰らせない」と自分の決意を確かめ、呻くように声をしぼる苦悩の日々が続いています。そこでは、「無関心を装う」ことはできても、無関心ではいられないのです。
  そして、その「関心」と「無関心」とに人々が二分化しているのをいいことに、安全神話は、いま「安心神話」に姿を変えて生き延びようとしています。たとえば「20ミリシーベルト」、たとえば「除染」、たとえば「復興」。そこには責任の言葉はありません。
再び神話が人々の間に広がり定着させてしまう否かは、ひとえに私たちの、より正確に言えば、わたしの、そしてあなたの関心と無関心にかかっているのではないでしょうか。
この写真展が人々を分断する無関心に抗う一助となればと願っております。


2013年3月

豊田直巳


私の悔恨


「想定外」ではありませんでした。少なくとも私自身は、こうなることを事故前から恐れていたのですから。
起こってしまった現実を前にして、いまさら「思いもしなかった」などと言い訳などできようはずはないのです。 
ヒロシマ、ナガサキを知り、第五福竜丸をビキニを知り、そしてスリーマイルをチェルノブイリを知っていたのです。
ただ、それでも、いや、だからこそ、恐ろしくておそろしくて、安全神話を信仰しようとしていたのでしょう、私も。
そして、目が覚めたとき、私は取り返しのつかない現実を目にすることになってしまったのです。セシウムが、ストロンチウムが、プルトニウムが……降り積もってしまった大地の上で。


2013年3月

豊田直巳


写真をご覧いただいた方々に


ご覧いただいた写真は、2011年3月11日、福島第一原子力発電所が次々と爆発し、メルトダウンが進行する中で撮影を始めたものです。

「あの日から」2年目を迎えた今も放射能の漏洩が続き、事故の収束がいつになるのかもわかりません。まして、半減期の長い放射性物質が降り積もった地域は、政府や自治体の「帰還」の掛け声と裏腹に、いつ故郷に帰れるか、その目途すらたちません。

 その先行きのまったく見えない不安の中で、暮らす人々がいることを忘れないでいただけたらと思います。


2013年3月

豊田直巳



□ 略歴

フォトジャーナリスト

1956

静岡県生まれ


日本ビジュアルジャーナリスト協会(JVJA)会員

 

著書・写真集

『フクシマ元年』

(毎日新聞社 2012年3月)

『福島 原発震災のまち』

(岩波書店 2011年8月)

『戦争を止めたい フォトジャーナリストの見る世界』

 

(岩波書店 2009年)

『大津波アチェの子供たち』

(第三書館 2005年)

『世界の戦場から イラク 爆撃と占領の日々』

 

(岩波書店 2003年)

『「イラク戦争」の30日』

(七つ森書館 2003年)

『パレスチナの子供たち』

(第三書館 2003年)

など多数 


主な共著

『東日本大震災記録写真集 TSUNAMI 3・11 豊田直巳編』

 

(第三書館)

『3・11 メルトダウン JVJA写真集』

(凱風社 2011年7月)

『子ども・平和・未来 21世紀の紛争』

 

(岩崎書店2010年10月)

『「戦地」に生きる人々 JVJA編』

(集英社新書 2010年9月)

『フォトジャーナリスト13人の眼 JVJA編』

 

(集英社新書 2005年)

など多数 


近年の主な写真展(個展)

2007

ヨーロッパ連合議会(EU議会)議事堂展

 

(ブリュッセル:ベルギー)

フィンランド国会議場堂展

(ヘルシンキ:フィンランド)

2008

スコットランド議事堂展

(エジンバラ:スコットランド)

京都大学展

(京都府京都市)

ベルギー国会議事堂展

(ブリュッセル:ベルギー)

2011

甲南大学展

(兵庫県神戸市)

2012

ベネズエラ国立美術館展

(カラカス:ベネズエラ)

3・11 東日本大震災・原発震災関連写真展出品参加

国連本部展

(ニューヨーク:USA)

「3・11 ユニセフ東日本大震災報告写真展」

 

(日本ユニセフ協会主催)

フォトキナ2012展

(ケルン:ドイツ)

「生きる」− Post-TSUNAMI展

(日本写真家協会主催)


ウェブサイト、連絡先他

 

豊田直巳公式ウェブサイト「境界線の記憶」
  http://www.ne.jp/asahi/n/toyoda/

 

豊田直巳・戦火の子どもたち写真展を広げる会
  http://senka-kodomotachi.cocolog-nifty.com
  /blog/1/index.html