薮内 一実 展[文明の痕跡 U]
YABUUCHI Kazumi


2016.11.14-11.19
ギャラリー白3



薮内一実の作品について

 建築物のようなフォルムを持つ薮内一実の作品。それらはセメントを素材とし、直線的な造形、薄いグレーの色合い、作品の一隅に置かれた古い機械部品が特徴だ。また、作品によっては一部に剥落が見られる。機械部品を基準に眺めると、作品は実寸以上のスケール感を見せる。まるで失われた文明の記念碑のようだ。また、機械部品が人間の比喩だとすれば、大都会の片隅にたたずむ孤独な人間像が浮かび上がる。しかし、作品の印象は決してペシミスティックではない。むしろ都市の人間が孤独を飼い慣らすように、メランコリックな風情と乾いた詩情を漂わせているのだ。この苦み走った大人の美意識こそ、薮内作品の魅力である。 さて、冒頭でも触れたが、彼の作品はセメントでできている。木枠にセメントを流し込んで造形しているのだ。美術作品の素材としてはかなり珍しい部類である。どのような経緯でそこへ至ったのか。
薮内は元々画家だったが、1980年後半に廃木材などを画面に貼り付けた半立体的な作風へと移行する。やがて木材を主体とするインスタレーションへと進展し、2000年代初頭にはセメントを用いるようになった。きっかけは、建築家・安藤忠雄のコンクリート打ち放し建築を知ったことである。その存在感や美しさに触発されたのはもちろんだが、自身の創作とセメントの相性を直感的に見抜いたのだ。また、造形の元になるドローイングも、建築の間取り図や図面から着想しているという。セメントの扱いに慣れるまで何度も試行錯誤を重ねたが、灰色と白のセメントをブレンドする、繊維素材を混ぜる、最適な濃度を見極めるなど独自のノウハウを確立し、ついに独自の作風へと至った。 最後にもう一つ、作品の楽しみ方を伝授しよう。彼の作品には機械部品の他、小さな木の枝や白砂が用いられることがある。これらは「見立て」の一種だ。たとえば、盆栽や枯山水では、我々は対象物を通して巨視的な世界に思いを馳せる。薮内の作品も同様で、典型的なモダンアートである一方、伝統的な東洋美術の価値観も内包しているのである。

(小吹隆文・美術ライター)



□ 略歴

1957

大阪市生まれ

 

個展

1984

ギャラリ−射手座

(京都)

1986

ギャラリ−白

(大阪)

1989

ギャラリ−白

(大阪)

1992

信濃橋画廊apron

(大阪)

1994

信濃橋画廊

(大阪)

1997

ギャラリ−白

(大阪)

2003

ギャラリ−白

(大阪)

2009

信濃橋画廊5

(大阪)

2012

ギャラリ−白3

(大阪)

2013

ギャラリ−白3

(大阪)

2014

ギャラリ−白3

(大阪)

2016

ギャラリ−a

(京都)

ギャラリ−白3

(大阪)


グループ展

1997

主張する小さなオブジェ展 part10

(信濃橋画廊:大阪)

APOSTROPHE ART PART2 展

(ギャラリ−石彫:大阪)

2003

「現代美術の在り方を問う」展

(比良美術館:滋賀)

2007

架空通信 百花繚乱展

(兵庫県立美術館ギャラリ−棟:兵庫)

2008

架空通信 百花繚乱展

(兵庫県立美術館ギャラリ−棟:兵庫)

尼崎芸術文化協会「秀作美術展」

 

(尼崎市総合文化センター:兵庫)

2009

架空通信 百花繚乱展

(兵庫県立美術館ギャラリ−棟:兵庫)

尼崎芸術文化協会「芸文美術展」

 

(尼崎市総合文化センター:兵庫)

2010

架空通信 百花繚乱展

(兵庫県立美術館ギャラリ−棟:兵庫)

尼崎芸術文化協会「芸文美術展」

 

(尼崎市総合文化センター:兵庫)

2011

尼崎芸術文化協会「芸文美術展」

 

(尼崎市総合文化センター:兵庫)

2012

尼崎芸術文化協会「芸文美術展」

 

(尼崎市総合文化センター:兵庫)

尼崎アートフェスティバル2012

 

(尼崎市総合文化センター:兵庫)

2013

尼崎芸術文化協会「芸文美術展」

 

(尼崎市総合文化センター:兵庫)

尼崎アートフェスティバル2013

 

(尼崎市総合文化センター:兵庫)

2014

尼崎アートフェスティバル2014

 

(尼崎市総合文化センター:兵庫)

大阪・ハンブルク交流展

(ギャラリーCASO:大阪)

2016

第1回枕崎国際芸術賞展

(枕崎市文化資料センター南溟館:鹿児島)


受賞

2016

第1回枕崎国際芸術賞展[市長奨励賞]