川田 剛 展
KAWADA Tsuyoshi


2017.7.10-7.15
ギャラリー白3



自作について

芸術とは何か?『ある目的のために論理を構築し、その価値判断を感覚に委ねるもの』と現在、私は定義している。これはあらゆる分野の中で、芸術が区分される理由を考えた時の私の定義である。 『論理を構築し』は『論理が構築され』と言った方が実際の美術制作に近いだろう。論理なくして芸術は成立しない。音や単語を羅列しても、それは音楽や文学にはなり得ない。同時に、論理が優れていても感動がなければ、芸術とは言えない。この論理と感覚を向上させるためには、連続的かつ継続的追求が不可欠である。私は韓国の美大生に美術制作について説明する時、しばしばアンパンマンの話をする。アンパンマンは自身の頭部を食料として提供することで、相手の空腹を満たし、悪さをするバイキンマンを懲らしめる。この設定は個人の美術制作に置き換えて言えば、主題や方法などの中心的な役割を担っている。そして、アンパンマンの無限のエピソードを可能にしているのは、各話の主体となる〇〇マンの存在なのだ。〇〇マンは歯磨き粉であったり、ねじ回しであったり、身の周りにあるすべてであり、〇〇マンが何かによっておのずからエピソードは作り出される。この構図が美術制作でいえば多様性であり、連続的かつ継続的追求により、自身の論理と感覚の向上を可能にするのである。ここでは自作について中心となる主題と論理、そして、感覚、多様性について紹介する。
私は自作において、有機的抽象形態を追求しており、近年は『分裂・膨張・突起』をテーマに作品を制作している。生物・無生物を問わず自然物に相当するような洗練された形態を造り出すのが、私の美術制作の目的である。私は『抽象』という方法で自然物へのアプローチを試みている。抽象とは、『対象から注目すべき要素を抽出し、他は排除する考え方』だというのが私の捉え方で、抽象は対象を分析する上で極めて合理的な考え方である。有機的抽象形態を追求する上で、生物が生まれ形が決定する過程における、細胞の『分裂』とその『膨張』(成長)と四肢や指などの『突起』という3つの要素を抽出した作品が『分裂・膨張・突起』である。私の制作は主観的に作品の形態をイメージするのではなく、自然物の要素を抽出して再現することで、個性的な私の形態を創造しようとするものである。
優れた感覚なしに、優れた芸術は生まれない。私は自作として形態を提示する時に、主観的イメージを極力排除しようとしている。理由は2つある。一つは私に才能がないからで、もう一つは自然物の形態を決定する要因は、主観的なイメージとは無関係だからである。そこで私は制作過程の中で、極力客観的に私の感覚を作用させようとしている。作品『分裂・膨張・突起』の基本形態は鶏卵である。卵の断面の面積が最も広くなる面で水平に二分割、垂直に四分割すると、卵形は8つに分割され、同時に3つの断面が得られる。3つの断面を方眼紙に描き、分割された部分が膨張した形を方眼紙という平面上で決定する。作成した図面を忠実に立体にしたものを観て、その良し悪しを評価するのが私の客観的感覚なのである。音楽や体育は生まれつきの才能が大きな比重を占めるが、美術の客観的感覚は観察や実技、考察によって著しく向上するため、優れた感覚を獲得することで、優れた美術作品は生まれる。
そのためにも、美術に結論は必要ない。なぜなら、美術制作において完全な答えに到達してしまったら、制作が続けられなくなるからだ。むしろ、いつまででも続けられる作品制作の仕組みを作り出し、感覚と作品を相互に向上させることこそ重要である。私が生物の有機的要素として抽出した『分裂・膨張・突起』は、作品の多様性のための要素でもある。まず、形態を8つに分割したことで、どの部分を造るか空けるか、膨張させるか否かで、バリエーションが生まれる。また、作品は床と最小で三点が接していれば自立するので、どのように自立させるか、そのためにどのような突起物を加えるかでさらなるバリエーションが生まれる。そして、作品を組み立てて見せるか、分解して見せるかで展示のバリエーションも生まれるのである。

2017.5.27 川田 剛



□ 略歴

1974

神戸生まれ

1993

兵庫県立明石高校美術コース 卒業

2001

長崎大学大学院教育学研究科 修了

 

 

現在

韓国国立慶北大学校 非常勤講師

 

個展

1996

市場のギャラリー葉月

(長崎)

1988

市場のギャラリー葉月

(長崎)

1999

長崎新聞社ギャラリー

(長崎)

KTNギャラリー

(長崎)

2000

慶北大学校彫塑棟

(大邱,韓国)

 

東亜百貨店本店展示室

(大邱,韓国)

 

長崎ブリックホールギャラリー

(長崎)

2008

浦上百貨センターギャラリー

(長崎)

 

スペース嘉昌

(大邱,韓国)

2013

今年の青年作家招待展

(大邱文化芸術会館:大邱,韓国)

2016

シアン美術館

(永川,韓国)


主要グループ展、他展

1996

第3回長崎新美術展 大賞受賞、長崎県立美術博物館

2008

申京愛 川田剛 2人展

(Hankeesook Gallery:大邱,韓国)

2009

Schema open show

(シェマ美術館:清州,韓国)

2010

Plastic Paradise

(清州美術創作スタジオ:韓国)

申京愛 川田剛 2人展

(鳳山文化会館:大邱,韓国)

ギャラリーアウラ開館記念展

(ソウル,韓国)

2012

青年美術プロジェクト、EXCO

(大邱,韓国)

2014

滞留 sojourn

(シアン美術館:永川,韓国)

2016

第17回全州国際映画祭 トロフィー制作

昌原亜細亜美術祭

(城山アートホール:韓国)