田中 悠 展
<テキスト:村上 ふみ>


2022.11.28-12.10 (12.4close)
ギャラリー白3



田中悠展によせて

村上 ふみ

 
 一度見たら忘れられないような鮮烈な色彩と、包み込まれたものが「何か」を想像させるフォルム。田中悠の作品には、見る者の印象に残るインパクトがある。
 田中は、京都嵯峨芸術大学(現・京都嵯峨美術大学)で油画を専攻したが、大学の授業で受講した華道の面白さに魅せられたのが大きなきっかけとなり、陶芸分野へと転向した。在学中は課題をこなしながら、わずかな合間で自主制作することが精いっぱいだったようだが、その大変さよりも土に触れる楽しみが先行した。授業で大きなものを作るという課題があり、取り敢えず手を動かさねばと、手びねりでうつわの形状に土を積んでいくと、次第に重力に負けて土がへたり、器面に皺が生まれてきた。終着点に迷い、最終的には、皺ができたうつわを袋状にし、口を縛り、中の空間を閉じ込めた形状にしてみることにした。これが田中の造形の原点である。ここから、口を閉じた袋状の造形の面白さを、色彩、模様、素材など多方面から探っていくこととなった。卒業後、2015年頃から本格的に作家として作品を発表し始め、同年には、第49回女流陶芸公募展で女流陶芸大賞を受賞した。受賞作は、赤、青、黄の口を縛った袋を3つ並べたものであり、卒業制作よりも、現在に通じる要素が多分に感じられる。これをどのように展開していくのかという審査員の批評を受け、さらに作品の造形要素について自身に問うていくこととなった。
 試行錯誤を重ねる中で、田中が特に注力したのが、かたちの深化と、それに付随する色彩である。初期の田中の作品は年代ごとに並べてみると、一目瞭然で技術の上達が見て取れる。現在では、土でこんなにも繊細な表現ができるのかと驚かされるほどである。制作の方向性が定まってきた《fukuromono》では、一目見て包まれているものが、うつわであるとわかるような形状をしていたが、2018年頃から発表し始めた《tsutsumimono》では、だんだんとうつわという概念から離れ、かたちある「何か」が包まれ、「何か」は明らかにされない造形へと転じていった。うつわから離れることで、形状の制約が解け、自身の中でより思考を深めて内側の「何か」と対峙できるようになったのではないだろうか。また、この頃から定番化してきたウコン布を模した鮮やかな黄色は、色彩に意味を極力持たせずに、作品のフォルムを強調するものであった。この色彩を採用する以前、様々な色を試したが、結局のところ、「色に理由を持たせていないのに色を入れるのはどうなのか」と考えていたという。そのような中で、陶磁器を包むのに一般的なウコン布の色彩は、同じく陶磁器を包むという作品の形状にとって自然に受け入れられるものであった。近年、色彩は深みを増し、陰影や皺が美しく入り、作品を取り巻く空間にも広がりが出てきた。
 そして、この度の個展に際して制作された《tsutsumimono》は、新たな試みとして、質感の異なる2つの布で表わされた。これまでよりも肌理細かい布は、より描写が繊細となるため、成形、着色、焼成にあたっては、大いに不安もあっただろうと予想する。作品からは、田中の素材に対する探究心とともに、決して妥協を許さない姿勢が垣間見られた。
 作品の成り立ちには様々な背景が存在し、表現したい何かを投じて、作品が成立する場合もあれば、素材との対話からかたちが生まれる場合もあるだろう。田中の造形の背景にあるものを突き詰めていくと、布に包まれている「何か」によって、多くの陶芸作品に存在する内と外の関係性を強く意識させることで、ひいては誰の心の中にもある、隠された「内」に強く訴えかけるということだと思う。思うという曖昧な言い回しを使ったのは、田中の話を聞いていると、こういったコンセプトよりも、作家にとって「土で造形を作る」ということが制作の第一義となっているように感じるからである。作品の内側と外側を、同時進行で、等しく注意をはらってかたち作り、焼く、というやきものを成立させる根本的な行為そのものが、作家にとって重要な意味を持ち、生活する上での楽しみとも苦しみともなっているようである。学生時代に油画から陶芸に転向した当時の、やきものに対する純粋な好奇心、造形の中に生まれる独特の空間への希求は現在も継続しており、それをより分かりやすく伝えるかたち、自身が求めたかたちが、今日、田中が帰着した造形ではないか。それは結果的に極めてやきものらしく、土のリアリティを感じさせるものとなっている。

 
(むらかみ ふみ・兵庫陶芸美術館学芸員)



□ 略歴

1989

愛媛県生まれ

2013

京都嵯峨芸術大学工芸領域陶芸分野卒業

2015

京都嵯峨芸術大学工芸領域陶芸分野教務助手

2018

教務助手を引退

現在

京都市に在住、制作

 

個展

2017

ギャラリー白

(大阪)

2021

ギャラリー白kuro

(大阪)

2022

ギャラリー白3

(大阪)


グループ展

2015

わん碗one展2015

(東五六:京都)

2016

陶芸tomorrow 6大学推薦 若手の饗宴

 

(ギャラリーマロニエ:京都)

わん碗one展2016

(東五六:京都)

百酒ひゃくはい ぐてんぐ展

(高島屋:京都)

2017

わん碗one展2017

(東五六:京都)

ファインアートユニバーシアードU-35

 

(茨城県つくば美術館:茨城)

百酒ひゃくはい ぐてんぐ展

(高島屋:京都)

2018

陶芸の提案2018 -手に伝わる-

 

(ギャラリー白/ギャラリー白3/ギャラリー白kuro:大阪)

わんの形U

(ギャラリーヴォイス:岐阜)

MIギャラリーアートアワード

(MIギャラリー:大阪)

プレBIWAKOビエンナーレ

(マニラハウス:マニラ)

マニラハウス・マニラ

(近江八幡旧市街地:滋賀)

わん 碗 one 展2018

(高島屋:京都)

ぐいのみ展

(ギャラリー数奇:愛知)

百酒ひゃくはい ぐてんぐ展

(高島屋:京都)

新春を寿く酒器展

(高島屋:大阪)

2019

Art fair Philippines 2019

(フィリピン)

陶芸の提案2019 -制御する-

 

(ギャラリー白/ギャラリー白3/ギャラリー白kuro:大阪)

令和新元号記念ぐい呑展

(高島屋:大阪)

第70回 華道京展 新進陶芸作家特別出展

 

(大丸ミュージアム:京都)

よいの形 Part2

(ギャラリーヴォイス:岐阜)

開廊20周年企画 好きな形展 増殖と装飾

 

(ギャラリー数奇:愛知)

以美為用展〜明日へのとびら〜

(高島屋:京都)

フォトジェニックな作品展

(ギャラリーにしかわ:京都)

Art fair Asia Fukuoka 2019

(ホテルオークラ:福岡)

開廊20周年記念 茶碗展

(ギャラリー数奇:愛知)

わん 碗 one 展2019

(橋本関雪記念館:京都)

回廊20周年企画 ぐい呑展

(ギャラリー数奇:愛知)

酒器展

(日本橋三越:東京)

百酒ひゃくはい ぐてんぐ展

(高島屋:京都)

新春を寿く酒器展

(高島屋:大阪)

2020

陶芸の提案2020 -The one and only-

 

(ギャラリー白/ギャラリー白3/ギャラリー白kuro:大阪)

2021

陶芸の提案2021 -間近に見る-

 

(ギャラリー白/ギャラリー白3/ギャラリー白kuro:大阪)

2022

陶芸の提案2022 -story-

 

(ギャラリー白/ギャラリー白3/ギャラリー白kuro:大阪)


公募展・受賞

2015

第49回女流陶芸公募展 (京都市美術館) 女流陶芸大賞

2017

市展・京展80年記念展 (京都市美術館)

Esteka blanco & oro (サンティアゴ・チリ)

2018

第4回 藝文京展<京都新聞賞>(京都芸術センター・京都)

第17回東京・ニューヨーク姉妹都市交流陶芸 2nd prize(日本ギャラリー・ニューヨーク)

2019

第4回金沢・世界工芸コンペティション(金沢21世紀美術館・石川)