かのう たかお 展 KANO Takao


2018.3.19-3.31 (3.25 close)
ギャラリー白 kuro



彼方の記憶/此方の造形


マルテル坂本牧子


地質学では、砂は「直径2mmから0.0625mmの堆積粒子」と定義され、その多くは岩石が風化して壊れた「かけら」で出来ているという。つまり、その小さな粒子の一つ一つには長い年月の記憶がすでに蓄積されているのである。そして、かのうたかおが、砂のイメージを表現するために用いているのが、「シャモット」という素材である。原料となっているのは、焼成した耐火粘土のかけら、つまり、粉砕して粉々になった陶磁器で、焼成しても固まることはない。砂と同様、かたちとして留まることがなく、移ろい、脆く、崩れやすいものだ。よって、窯の中で釉薬化して熔着し、その痕跡をかたちに留めているのは、シャモットに混ぜ込んだ長石の粉末である。約1250℃の高温焼成にも長時間耐え、まるで地中から掘り出された古代の遺物のように、シャモットの中から悠然と現れる造形物こそ、かのうがこの16年余り制作し続けている砂の作品である。固まる部分と、固まらない部分から成るユニークな造形は、焼成後、固まらない部分を削り落とすという行為によって完成するが、どこまで崩れ、どこまで残るのか。その鬩ぎ合いは奇妙にリアルで、見ているうちに時間と空間の軸が少しずつズレていくような、じつに不思議な存在感を放つものとなる。
聞けば、その原点は、青年海外協力隊員として2年半を過ごした西アフリカの二ジェール共和国で見た砂漠の風景にあるという。壮大なスケールで眼前に広がり、風に吹かれて刻々と変化していく砂の風紋のダイナミズム。その神秘的な光景に圧倒された。さらに、ニジェールで作られていた素朴なやきものの持つ大らかさや逞しさにも原初のエネルギーを感じ取った。若き日のアフリカでの実体験が、かのうを表面的なかたちや技巧から解放したのだろう。それは、やがて既成のやきものの価値観に対する密やかなアンチテーゼとして、かのうの制作の根幹を成していく。それが顕著に現れたのが、2010年頃から展開している《天アリ》シリーズであろう。誰もが知る古陶磁の名品や弥生土器の壺などのかたちを借り、その内側に広がる砂の景色をクローズアップした、かのうの核心に迫る作品である。今、見ているものは何なのか。その遥か彼方にある記憶を呼び覚ますものとは何なのか。そもそも一体、やきものに何を求めるのか。
砂の作品と並行して、強く興味を惹かれるという古墳時代の埴輪や直弧文から着想を得た陶土による立体作品も本格的に手掛け、近年、ますます原初的な造形の向きを強めている。ざっくりとした土肌に白い化粧土と透明釉を重ね、謎めいた直弧文が施されたり、孔を空けたり、いかにも古代の呪術的な道具といった風情であるが、その「かたちの中に存在するであろう向こう側」を内に秘め、見る者に謎かけを試みる。そこに焙り出されるのは、美術と工芸の間隙を鋭く突く、反骨のやきものの造形である。


Makiko Sakamoto-Martel(兵庫陶芸美術館学芸員)



□ 略歴

1974

京都府生まれ

1998

京都精華大学美術学部造形学科陶芸卒業

青年海外協力隊隊員として西アフリカニジェール共和国にて陶磁器指導

2001

帰国

 

個展

2002

「SORTiR」

(ギャラリーマロニエ:京都)

2003

ギャラリーマクレノン

(東京)

2004

「dans le desert」

(ギャラリーマロニエ:京都)

2005

「砂の記憶」

(京都文化博物館:京都)

2006

「la dune」

(ギャラリー中井:京都)

2007

ギャラリーマロニエ

(京都)

2009

ギャラリー中井

(京都)

大丸京都店アートサロン

(京都)

 

ギャラリー白3

(大阪)

2010

ギャラリー揺

(京都)

2011

ギャラリー中井

(京都)

Petit luxe

(東京)

 

ギャラリー白3

(大阪)

2013

ギャラリー白3

(大阪)

2014

ギャラリー恵風

(京都)

ギャラリーゆめ

(兵庫)

2015

ギャラリー中井

(京都)

京都タカシマヤアートサロン

(京都)

2016

白白庵

(東京)

2017

ギャラリー白3

(大阪)

2018

ギャラリー白kuro

(大阪)


グループ展

2003

花落ちて なお 花在り

(さかづき美術館:岐阜)

そそぐ器

(ギャラリー玄海:東京)

2004

少年陶芸探偵団

(さかづき美術館:岐阜)

2005

ハコ展

(さかづき美術館:岐阜)

哲学キャフェ…それぞれの物語展

(ギャラリー花いろ:京都)

2006

少年陶芸探偵団

(さかづき美術館:岐阜)

2006

第45回記念朝日陶芸展

(スカイル8階丸栄催事場:愛知 

/滋賀県立陶芸の森・信楽産業展示館:滋賀 
/高浜市やきものの里かわら美術館:愛知 
/堺市立文化館:大阪/そごう美術館:神奈川)

2008

Ceramic Site 2008

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

現代陶芸作家による Ceramic site 2008

 

(京阪百貨店守口店美術画廊:大阪)

 

試みの茶事

(ギャラリー陶林春窯:岐阜)

2009

遊椀展

(ギャラリー器館:京都)

 

Ceramic Site 2009

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

 

へうげて、暮らすか

(クラスカ:東京)

gallerism 2009−画廊の視点

 

(大阪府立現代美術センター:大阪)

 

へうげ十作「ISETOYAN」

(伊勢丹新宿店:東京)

2010

フタのある形 Part U

(ギャラリーヴォイス:岐阜)

 

やきものの現在

(ギャラリーヴォイス:岐阜)

 

懐石の器

(ギャラリー器館:京都)

 

京焼×九谷焼 春場所

(金沢アートグミ:石川)

Ceramic Site 2010

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

 

少年陶芸探偵団

(市之倉さかづき美術館:岐阜)

 

イケヤン

(大阪/岐阜/岡山/愛知/東京)

2011

Ceramic Site 2011

(ギャラリー白,ギャラリー白3:大阪)

 

イケヤン

(大阪/岐阜/岡山/愛知/東京)

 

へうげ十作『ABBENOIKZO』

(近鉄阿倍野・大阪)

 

それぞれの炎

(ギャラリー器館・京都)

 

以美為甲

(高島屋・京都)

第9回国際陶磁器展美濃

(セラミックパークMINO:岐阜)

2012

Ceramic Site 2012

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

かのうたかお+松浦コータロー展

(ギャラリーpetitluxe:東京)

アート京都

(ホテルモントレ京都:京都)

イケヤン☆2012

(東京:金沢:大阪:岐阜:倉敷:名古屋:京都)

以美為用

(燗屋京都店:京都)

CERAMICA MULTIPLEX 2012

(クロアチア)

2013

Ceramic Site 2013

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

匠と侍

(阪急うめだ本店:大阪)

三人展

(器○□:東京)

東西当世数寄侍

(白白庵:東京)

以美為用

(燗屋京都店:京都)

匠と侍

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

神戸アートマルシェ

 

(神戸メリケンパークオリエンタルホテル:兵庫)

アートラインかしわ2013

(三井ガーデンホテル柏:千葉)

しなやかな陶

(ギャラリーwks.:大阪)

天祭一〇八

(増上寺:東京)

京・焼・今・展2013

(建仁寺両足院:京都)

現代茶ノ湯スタイル展 縁-enishi-

(西部渋谷店:東京)

2014

ISETAN茶会

(伊勢丹新宿店:東京)

守破離 存在するモノ存在させるモノ

 

(白白庵:東京/KOGEIまつきち:石川)

CHABAKO展

(伊勢丹新宿店:東京)

Ceramic Site 2014

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

GALLERY FUNATSURU

 

(FUNATSURU KYOTO KAMOGAWA RESORT:京都)

 

セイカde ウツワ

(市之倉さかづき美術館:岐阜)

天祭一〇八

(増上寺:東京)

京・焼・今・展2014

(建仁寺両足院:京都)

京焼歴代展 継承と展開

(京都市美術館:京都)

2015

Erosion/Transfiguration-侵蝕と変容の先の関係性へ-

 

(瑞雲庵:京都)

Ceramic Site 2015

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

天祭一〇八

(増上寺:東京)

京・焼・今・展2015

(建仁寺両足院:京都)

2016

Ceramic Site 2016

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

天祭一〇八

(増上寺:東京)

京・焼・今・展2016

(建仁寺両足院:京都)

2017

Ceramic Site 2017

 

(ギャラリー白/ギャラリー白3/ギャラリー白kuro:大阪)


受賞

2008

国際陶磁器フェスティバル美濃'08 陶芸部門 銀賞

2013

天祭一○八<グランプリ>


パブリックコレクション

Croatian ceramic association(クロアチア)
増上寺(東京)
京都市美術館(京都)